ゼロフラックス電流センサーの動作原理と特長

この記事では、電力測定や波形観測などに用いるゼロフラックス方式の技術を用いた高確度・広帯域な電流センサーについて解説します。
商用周波数(50 Hz, 60 Hz)での測定がメインとなる系統電源品質管理用の電流センサー(汎用)について、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

HIOKIは、1971年に最初のクランプテスタを発売してから、50年以上が経過しました。その間、ゼロフラックス方式にこだわり、磁電変換技術やデバイスとして代表的なフラックスゲートとホール素子を自社開発し、高確度・広帯域性能を実現してきました。

  • 高性能測定を目的とするゼロフラックス方式の電流センサーの動作原理を知ることができます。
  • それぞれの電流検出方式の特徴を理解し、用途に応じた電流センサーを選べます。

ゼロフラックス方式電流センサーの動作原理(高性能測定用)

ゼロフラックス方式とは?

  • 注記:ここではホール素子検出型での説明をしています。
  • 1.測定導体に流れる電流によって、磁気コアの内部に磁束(Φ)が発生します。
  • 2.磁気コアの内部で発生する磁束を打ち消すように、2次側の帰還巻線に2次電流が流れます。(帰還巻線の磁束はΦ’)
  • 3.ただし、DC電流からの低周波領域では、磁束をキャンセルできないため、磁気回路内に残ります。(残留磁束はΦ-Φ’)
  • 4.ホール素子はこの残留磁束(Φ-Φ’)を検出する。残留磁束(Φ-Φ’)を相殺するように、アンプ回路を介して2次帰還電流に加算されます。
  • 5.2次電流はコイルを通り、シャント抵抗(r)に流れます。この電流は、CT電流(コイルによって発生する電流)とアンプ(ホール素子検出からのフィードバック電流)の合計。その結果、端子間に電圧が発生します。この出力電圧は測定電流に比例します。
  • プローブ出力:ホール素子検出
  • プローブ出力:フラックスゲート検出

ゼロフラックス方式はDCから高周波まで、広帯域で安定した測定を実現します。

1. ゼロフラックス方式:巻線検出型 (AC)の動作原理

ゼロフラックス方式(巻線検出型)の電流センサーは、基本的な巻線方式に負帰還回路を追加して、高性能化(高確度、広帯域)を実現した方式です。

  • ゼロフラックス方式では、測定導体に流れるAC電流によって磁気コアで発生する磁束(Φ)を打ち消すように、帰還巻線に2次電流が流れ、2次電流による磁束(Φ’)が誘導されます。
  • しかし、低周波領域では、磁束(Φ-Φ’)をキャンセルできないため、磁気回路内に残ります。
  • 検出巻線は、この残留磁束(Φ-Φ’)を検出します。続いて、低周波領域の磁束(Φ-Φ’)を打ち消すように、アンプ回路に帰還電流が加算されます。
  • このトータルの2次電流がシャント抵抗に流れ、端子間に電圧が発生します。
  • この出力電圧は測定電流に比例します。

2. ゼロフラックス方式:ホール素子検出型 (DC/AC)の動作原理

ゼロフラックス方式(ホール素子検出型)の電流センサーは、基本的なホール素子方式に負帰還回路を追加して、高性能化(広帯域、低ノイズ)を実現した方式です。

  • ゼロフラックス方式では、測定導体に流れるAC電流によって磁気コアで発生する磁束(Φ)を打ち消すように、帰還巻線に2次電流が流れ、2次電流による磁束(Φ’)が誘導されます。
  • しかし、低周波領域では、磁束(Φ-Φ’)をキャンセルできないため、磁気回路内に残ります。
  • ホール素子は、この残留磁束(Φ-Φ’)を検出します。続いて、低周波領域の磁束(Φ-Φ’)を打ち消すように、アンプ回路に帰還電流が加算されます。
  • このトータルの2次電流がシャント抵抗に流れ、端子間に電圧が発生します。
  • この出力電圧は測定電流に比例します。

3. ゼロフラックス方式:フラックスゲート検出型の動作原理

ゼロフラックス方式(フラックスゲート検出型)の電流センサーは、フラックスゲートと負帰還回路を組み合わせることで、高性能化(高確度、広帯域、広動作温度範囲)を実現した方式です。

  • ゼロフラックス方式では、測定導体に流れるAC電流によって磁気コアで発生する磁束(Φ)を打ち消すように、帰還巻線に2次電流が流れ、2次電流による磁束(Φ’)が誘導されます。
  • しかし、低周波領域では、磁束(Φ-Φ’)をキャンセルできないため、磁気回路内に残ります。
  • フラックスゲートは、この残留磁束(Φ-Φ’)を検出します。続いて、低周波領域の磁束(Φ-Φ’)を打ち消すように、アンプ回路に帰還電流が加算されます。
  • このトータルの2次電流がシャント抵抗に流れ、端子間に電圧が発生します。
  • この出力電圧は測定電流に比例します。

高性能電流センサーの特徴と用途

ゼロフラックス方式比較表

巻線検出型
(AC)
ホール素子検出型
(DC/AC)
フラックスゲート検出型
(AC)
特徴
  • 磁気コア内の磁束を打ち消す負帰還動作をするため、磁気コアのB-H 特性の影響を受けず直線性に優れています。
  • 1 Hzからの低周波領域では検出巻線とアンプによる動作、そして高周波領域では帰還巻線による動作により、広帯域化を実現。
  • 交流(AC)のみで直流(DC)は測定できません。
  • 磁気コア内の磁束を打ち消す負帰還動作をするため、磁気コアのB-H 特性の影響を受けず直線性に優れています。
  • DCからの低周波領域ではホール素子とアンプによる動作、高周波領域では帰還巻線による動作により、広帯域化を実現。
  • 自社開発の高性能ホール素子を採用しており、極めて低いノイズを実現。
  • ホール素子の特性により、温度や経時変化などの要因でドリフトするので、長期の測定に適していません。
  • 磁気コア内の磁束を打ち消す負帰還動作をするため、磁気コアのB-H 特性の影響を受けず直線性に優れています。
  • DCからの低周波領域ではフラックスゲートとアンプによる動作、高周波領域では帰還巻線による動作により、広帯域化を実現。
  • フラックスゲートは、広い温度範囲で非常に小さなオフセットドリフトを示すため、非常に正確で安定した測定を実現でき、高精度電力計との組み合わせ使用に最適です。
  • 励起電流の周波数と高調波自体がノイズの原因となるため、フラックスゲートを使用した電流センサは、ホール素子を使用した電流センサよりもわずかにノイズが大きい。
用途
  • AC電力計用(高確度, 1 Hz〜)
  • 各種産業機器における三相交流出力などの電力測定
  • DC/AC 広帯域波形観測用(低ノイズ)
  • 各種産業機器における待機電流、突入電流、負荷電流、制御電流などの波形観測。
  • DC/AC 電力計用(高確度, 高安定, 広温度範囲)
  • ハイブリッド車、電気自動車などの輸送機器における燃費、電費測定
  • 各種産業機器における高精度電力測定
該当製品クランプオンセンサ9272-05

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HIOKIでは、電力測定や波形観測に最適な電流センサーや測定器を自社で設計・製造しています。

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