トピックス 2026.07.08
高周波電力校正の精度と周波数範囲を従来比10倍に向上 ―電気自動車やクリーンエネルギーシステムの開発に貢献―
概要
- パワーアナライザの高周波電力測定精度を評価するための新たな計測標準を開発。
- 独自の熱量計を用いた手法により、有効電力校正*1において、200 kHzで皮相電力の0.006%、1 MHzで0.014%の不確かさ*2を達成。
- 本研究成果が電気計測分野の国際学術誌「IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement」に掲載。*3
- *1: 計測器の校正とは、ある基準となる計測標準を用いて、その計測器の基準に対する誤差を測定すること。
- *2: 不確かさとは、測定値にどの程度のばらつきや誤差の可能性があるかを示す指標。不確かさが小さいほど、測定結果の信頼性が高いことを意味する。
- *3: M. Nakamura, "Calibration of Phase Error for a Wideband Precision Power Analyzer Using the Calorimetric Phase Standard," in IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement, vol. 75, pp. 1-10, 2026, Art no. 1003610, doi: 10.1109/TIM.2026.3687333.
中央:独自開発した「熱量計」
左右:校正対象のパワーアナライザと電流センサ
HIOKI(日置電機株式会社:長野県上田市、代表取締役社長:岡澤尊宏)は、高周波電力校正における長年の確度不足の課題を解決するため、電力計の誤差校正の基準に用いる新たな計測標準を開発しました。この計測標準は、国家計量標準機関で用いられる手法を含む従来技術と比較して、約10倍の高い校正確度を実現しています。
本技術は、電力損失が熱として現れる物理原理を利用したものです。当社が新たに開発した熱量計を用いた手法は、入力皮相電力の0.01%以下という微小な発熱を、動作周波数による影響をほぼ受けずに検出できます。
従来の電気的な校正手法では、周波数が高くなるにつれて校正不確かさが悪化します。一方、熱的な測定は周波数の影響を受けにくいという特長があります。当社が開発した新たな熱量計を用いた校正手法では、周囲温度の変動や外部からの熱入力を継続的に補正することで、200 kHzで皮相電力の0.006%、1 MHzで0.014%という非常に小さな不確かさを実現しました。200 kHzのような高周波では、既存の国家標準クラスの校正手法でもその不確かさは0.05%であり、これと比較すると約10倍高い精度です。
この不確かさは、150 VAの皮相電力において約9 mWに相当し、コンデンサーの消費電力程度のごくわずかな値です。そのため、効率改善の現場でも信頼性の高い測定結果を提供できます。
不確かさが小さいほど、測定結果の信頼性が高くなります。
当社は、電力の周波数にほとんど影響されない熱量計による測定を用いることで、高周波領域においても高い校正確度を維持することに成功しました。新たに開発した熱量計は、周囲温度の変動などの外部熱影響を継続的に補正する機構を備えており、広い周波数範囲で精度を維持する校正標準を実現しています。
新しく開発した熱量計の仕組み(左)と熱量計内部の構造(右)
研究論文から引用
また、本計測標準を用いてHIOKIのパワーアナライザPW8001と電流センサCT6904Aの組み合わせでの有効電力測定誤差を校正した結果、200 kHzまでの誤差が皮相電力の0.04%以下であることを確認しました。これは、従来の計測標準では十分に検証することが困難なほど高精度の領域です。
熱量計を用いて、パワーアナライザPW8001と電流センサCT6904Aの組み合わせにおける誤差を校正した。
プロットは校正値で、バーは不確かさを示す。赤点線は、従来の国家機関(NMI)における不確かさの例。開発手法は不確かさが小さいので、従来法では検出が困難なわずかな誤差を検出できている。
高確度な電力測定への取り組み
今回の成果は、電気自動車のモーター、太陽光発電設備のパワーコンディショナー、風力発電、データセンター向け電源など、エネルギーの流れを制御するパワーエレクトロニクス技術が、より高いスイッチング周波数と、より小さなエネルギー損失へと進化している中で実現したものです。機器の効率が向上するにつれて、エンジニアが測定すべき損失はますます小さくなっています。そのため、より広い周波数範囲で測定器の確度をより高精度に校正する必要が高まっており、校正対象の測定器よりもさらに高精度な計測標準が求められています。
当社は、この測定標準を、広帯域電力測定の精度を支える基盤技術として活用していく考えです。また、今後は本技術を用いた校正サービスへの展開を計画するとともに、さらなる測定技術の高度化を進め、電気自動車、再生可能エネルギー、データセンター、産業用電源など、パワーエレクトロニクス分野における高効率化と信頼性向上に貢献していきます。
世界的にパワーエレクトロニクス市場が拡大し、エネルギー規制の高度化により効率要求が高まる中、高周波性能をトレーサブルな精度で検証できる能力は、顧客の製品開発にとって大きな競争優位につながります。
当社の考える評価基準がもたらす、パワーエレクトロニクス分野への貢献
当社は、高精度な測定器を提供するだけでなく、測定結果の信頼性を支える計測標準の高度化にも取り組んでいます。信頼できる測定を通じて、パワーエレクトロニクス分野のイノベーションと、持続可能な社会の実現に貢献していきます。
論文情報
- 論文タイトル: “Calibration of Phase Error for a Wideband Precision Power Analyzer Using the Calorimetric Phase Standard”
- 著者: Miyuki Nakamura
- 掲載先: IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement
- DOI: 10.1109/TIM.2026.3687333
- 論文URL: https://ieeexplore.ieee.org/document/11494752
(本論文はクリエイティブ・コモンズCCBYによってライセンスされています。本ニュースリリースの内容は、本論文の内容を一部改変して用いています)
リンク
テクニカルノート(閲覧およびダウンロードにはmy HIOKIへのログインが必要です)
熱量計を用いた広帯域低力率電力の校正技術
本件に関するお問い合わせ先
日置電機株式会社 プロダクトマネジメント部
- 本文書に記載されている情報は発行日現在のものです。
- 本文書に記載の情報は変更になる場合があります。
- 本文書で使用している会社名および製品名は、各社の登録商標もしくは商標です。
