WLTPで定義された測定方法によるテストの効率化

認証機関も導入するクランプ型電流センサーとパワーアナライザで、WLTPの確度要求を満たしつつ、試験時の準備負荷を軽減

今回のお客様

ヨーロッパ大手の自動車メーカーで、早くからお客様のニーズやライフスタイルを意識し、柔軟な姿勢で時代に即したクルマづくりに取り組んできたZ社。近年は、中小型自動車の省エネ性能向上に力を注ぎ、世界中の市場で高い評価を得ています。

導入前の経緯

国際基準WLTPで必要な、より正確な電流計測が必要になった

これまで、自動車の排ガス・燃費の試験サイクルや試験方法は、国や地域が独自に規定していたため、自動車メーカーは自動車の認証を取得するのに、国や地域ごとに異なる試験が必要でした。この問題解消のために開発された世界的な統一規格が、WLTP(Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure)です。EUは2017年から、日本は2018年からWLTPが規定している測定法「WLTC(Worldwide Light-duty Test Cycles )モード」での燃費性能評価試験を導入しています。

  • 試験サイクル例

この規格では、自動車に搭載する各バッテリーの充放電に使われるエネルギー、つまり電力量を測定し、CO2排出量に換算することが必要です。そのため、型式認証を得るには電力量を算出しなくてはならず、電圧・電流・電力を正確に測定する必要があります。認証試験で測定された結果がカタログなどで公表できる数値となるため、自動車メーカーや自動車部品メーカーは、開発段階から認証試験を見据えた測定を実施するべく、より良い測定方法の確立に努めています。

ヨーロッパはじめ、世界各国の市場に数々の車種を展開しているZ社も、WLTPが規定する厳しい条件を満たすため、従来の測定方法を再検討。開発現場でも高い精度で電圧・電流・電力が測定できるよう、計測器の見直しを図りました。

お客様がHIOKIを選んだ主な理由

WLTPの厳しい確度要求を満たせる、クランプ型電流センサーだった

Z社は、より正確な測定方法を検討する中で直面したのが、電流計測の難しさです。電流計測には、貫通型かクランプ型の電流センサーを使います。一般的に貫通型電流センサーのほうが、測定確度が高いです。しかし、測定作業には配線をいったん外して、リング状のセンサーに配線を通し、計測後に再び配線を戻す作業が必要です。こうした作業は手間がかかりますし、抜線・結線で不測の事態が起きることもあります。

  • 貫通型電流センサー

一方、クランプ型電流センサーはリング状のセンサーが開閉し、ケーブルを挟むだけで測定できます。扱いやすく、測定時に配線を外す必要がありません。しかし、構造上どうしても開閉部の磁性材に隙間ができてしまうため、貫通型に比べ確度が劣ります。そのため、WLTPで要求される電流確度を満たすものがなかなか見つかりませんでした。このように、2種の電流センサーはそれぞれ一長一短があります。Z社は、正確を期すためにも、一度完成した車はできるだけ改造したくない。手間をかけずにクランプ型電流センサーで、より正確に燃費計測をしたいと考えていました。

  • クランプ型電流センサー
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  • クランプ型電流センサー
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  • 電流測定の進化を支えるテクノロジー
    ゼロフラックス方式(フラックスゲート検出型)

Z社は市場にある多くのクランプ型電流センサーをピックアップ。比較検討した結果、WLTPの厳しい確度要求を満たせる計測器は、HIOKIのAC/DCカレントプローブとパワーアナライザの組み合わせでした。どちらの製品もHIOKIが自社開発製造していることから、ノイズ対策も含め、組み合わせたときにより良い状態で測定できるよう設計されています。Z社は数回テストしたのち、すぐに導入を決めました。

即断の理由は、HIOKIの電流センサーが定格電流の違いによって、豊富にラインアップを揃えていることです。車両の電流容量に合わせて、最適な定格の電流センサーを選ぶことができますし、交換も簡単に行えることを高く評価しました。また、さまざまな現場へパワーアナライザを持ち運ぶことを想定していたZ社は、高精度ながらコンパクトでポータブル性に優れている点を評価し、PW3390を選定しました。

  • パワーアナライザ PW3390
  • 電流センサー

導入後の効果

クランプ型電流センサーによる正確な測定で、試験時の手間を軽減し、さらに安心感を獲得

Z社はAC/DCカレントプローブとパワーアナライザPW3390の導入により、線を挟むというわずかな手間だけで、WLTPの厳しい電流確度要求を満たすことができています。完成した試験車でも、配線を外すことなく測定が可能なため、燃費試験にかかっていた準備作業が最小限に抑えられるようになりました。

また、WLTPの認証試験は基本的に、認証機関のサイト、もしくは認証機関の審査官が立ち会いのもと自動車メーカーのサイトで実施されます。AC/DCカレントプローブとPW3390の組み合わせは、数多くの認証機関でも採用されています。Z社としては、認証機関と同じ設備を導入したことで、安心して開発段階から測定を繰り返すことができ、結果に自信を持った状態で認証試験に臨めるようになりました。

最近は、Z社が提携している部品メーカーが、最新の自社部品に置き換えたときの燃費性能を正確に評価しZ社に提案するため、AC/DCカレントプローブとPW3390の導入を検討しているという話もあります。Z社としては、安心してその部品を使用できるため、こうした部品メーカーの動きが活発化することを期待しています。

実際の走行を想定しているWLTPは、今も引き続き改訂されていています。2021年には低温試験の条件が追加され、-7℃での燃費性能が求められるようになりました。Z社はこの低温試験にもすぐに対応。HIOKIとの連携により、パワーアナライザPW3390の使用温度範囲を「0℃~40℃」から「-10℃~40℃」に拡大しました。今後も継続的な改訂が見込まれる燃費規制に対して、HIOKIと力を合わせて柔軟に対応していく方針です。

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