データロガーとは?選択する際の5つのポイント
データロガーとは、一定期間にわたってデータを収集して記録する装置です。
この記事では、データロギングについて、その定義、選定する際に考慮すべき5つのポイント、測定中に発生する一般的な問題と解決方法を解説します。
データロギングの定義
データロギングとは、一般的にセンサーや計測器からのデータを長期にわたって記録・保存し、その後の分析や解釈に役立てる体系的なプロセスです。温度、圧力、電圧、または測定可能な量など、さまざまなパラメータを取得し、デジタル形式で保存します。その主な目的は、データの包括的な履歴記録を提供することで、研究者、エンジニアが情報に基づいた意思決定を行い、さまざまなプロセスやシステムに対する貴重な洞察を得ることです。
データロガーは何に使用されますか?
データロガーは、データ収集のための不可欠なツールであり、測定やモニタリングにおいて重要な役割を果たします。製品の開発での評価検証、環境モニタリング、品質管理、産業オートメーションなど、さまざまな産業で幅広く採用されています。これらで用いられる多くの機器は、センサーや計測器からデータを収集し、デジタル形式に変換し、後の分析のために保存します。
データロガーはどのように選択しますか?
目的に最適なデータロガーを選択するときは、要件を効果的に満たすために、さまざまな要因を考慮することが重要です。ここでは、選定する際に考慮すべき5つのポイントを紹介します。
1. 表示・演算機能
データロガーの種類
データロガーには、主に2つのタイプがあります。
1. PCに接続するモデル
PCのディスプレー上でデータの確認や演算ができます。
2. オールインワンのデータロガー
データロガー本体に高解像度のカラー液晶ディスプレーを備え、測定条件の設定および、記録した測定データの変動グラフや数値をリアルタイムに確認できます。
オールインワンのデータロガーは一体型構造のため、データロガー本体に測定ユニットを接続することで携帯性と利便性が向上し、測定現場での現象の迅速な把握が容易になります。
表示画面と演算
オールインワンのデータロガーは、波形表示や数値表示、警報表示など、さまざまな表示画面を備えています。
これら複数の表示画面は、データ収集中に発生する現象を直感的に理解するのに役立ちます。
さらに、測定データの傾向を可視化するため最大値や最小値、ピーク値を演算したり、警報条件に対する監視および、警報出力など、多様な表示機能を備えたデータロガーを使用すると、収集したデータを解釈して対応する能力が大幅に向上します。
2. 拡張性
- 無線式の測定ユニット7台を用いたチャネル拡張例(左)、データロガー本体に直結式の測定ユニットを装着する拡張例(右)
拡張性は、データロガーを選択する際、システムの柔軟性と変化する測定ニーズへの適応性を決定するため非常に重要です。ここでは、拡張性の重要な側面について説明します。
無線LANでデータ通信
HIOKIのLR8450-01のような一部のデータロガーは、無線LANでデータを送信できる無線式の測定ユニットを用意しています。データロガー本体と測定ユニット間の無線通信には明確な利点があります。特に制御室から分離された試験室など、物理的な配線が困難な試験環境や、分散した複数箇所でのデータ収集に効果的です。
測定チャネルの拡張性
LR8450-01データロガーの測定ユニットは、直結ユニット(最大4ユニット)と無線ユニット(最大7ユニット)による拡張をサポートしています。つまり、試験要件の変化に応じて、より多くの測定チャネルに対応するようにデータロギングシステムを拡張できます。
データ記録時間
最大330チャンネルを追加できるLR8450-01データロガーは、さまざまな測定要件を処理するのに十分なデータ記録時間を提供します。これにより、多数のデータポイントを同時に収集する用途に特に有益で、詳細な分析のために包括的なデータを確実にキャプチャできます。
3. 測定の種類
測定項目は、温度、湿度、電圧、電流、電力、ひずみ、振動など多岐にわたります。そのため、データロガーを選ぶ際の重要な検討事項の1つとなります。データロガーには、単一の項目を測定する機種と、複数の種類を測定できる機種があります。さまざまな要件に合わせて柔軟なシステム構成を提供するデータロガーの1つが、HIOKI LR8450-01です。
システム構成の柔軟性
LR8450-01は、幅広い種類の中から測定ユニットが選択でき、適応性の高いシステム構成を実現します。この汎用性により、さまざまな用途への適用性が向上します。
データロガー本体と測定ユニットの組み合わせ
LR8450-01データロガーは、測定ユニットと組み合わせて使用します。データロガーとシームレスに連携するように特別に設計されたさまざまな測定ユニットが用意されており、必要に応じて簡単に交換または追加できます。次に、LR8450-01と組み合わせる測定ユニットを紹介します。
温度・電圧測定ユニット
温度測定では、特定の要件に応じて熱電対または測温抵抗体を使用して正確な温度を検出します。電圧測定では、測定範囲内で直接入力する使い方のほか、圧力や変位などの物理量を電圧信号として出力するセンサーから入力する使い方があります。電圧及び、熱電対と測温抵抗体入力を選択できるユニットと、電圧入力と熱電対入力のみのユニットがあります。
ひずみ測定ユニット
このユニットにはブリッジボックスが内蔵されており、ひずみゲージを測定ユニットに直接接続して、ひずみ測定を行うことができます。
電流測定ユニット
HIOKI の電流センサーをこのユニットに接続することで、電流測定を行うことができます。使用する電流センサーは、漏れ電流から6000 A まで、用途に合わせて柔軟に選択できます。
CAN測定ユニット
自動車やファクトリーオートメーションなど、さまざまな分野で広く使用されている通信プロトコルであるCANデータを取得できるユニットです。このユニットは、CAN信号をリアルタイムのアナログ波形に変換してデータロガーに表示したり、記録したデータをCAN信号として出力したりすることができます。
用途・事例
自動車研究者
温度ユニットを使用することで、車載バッテリーや電装品の温度変化をモニタリングし、設計の最適化を図ることができます。そして同時に電流ユニットを使用することで、消費電流データを収集することができます。収集したデータを分析することで、エネルギー効率の改善が可能となり、航続距離の長い電気自動車の開発に貢献します。
機械オペレータ
温度ユニットに温度センサーを接続し、機器の温度変化をリアルタイムで追跡することができます。データロガーの警報機能により、しきい値と警報出力の条件設定が簡単にでき、記録している温度か高温になった場合、警報出力することで予知保全に役立ちます。
さらに、電流ユニットを使用すると、生産機器の負荷電流を詳細に調べることができ、設備の過負荷などの状況を把握し、安全性と信頼性を高めることができます。
4. サンプリングレート
データロガーの性能を評価する際、サンプリングレートは非常に重要な要素です。通常、データロガーのサンプリングレートは数十ミリ秒から1秒の範囲です。次の記事は、1ミリ秒のサンプリングレートに関するものです。
1 msサンプリングのメリット
データ収集する信号の変化に対して、データロガーのサンプリングレートが適していないと、目的の現象を正しく記録できない場合があります。サンプリングレートが速いほど、データロガーで記録できる現象の範囲が広がります。たとえば、1 msのサンプリングレートでは、圧力や振動など数10 Hzの各種センサーの出力を記録できます。
HIOKIデータロガーLR8450の主な特長
LR8450に装着できる測定ユニットには、1 msサンプリングを実現した高速電圧ユニットとひずみユニットを用意しています。これにより、応力、圧力、ひずみなどの挙動を高速・高精度に収集する要件に応えます。
データ更新間隔はモジュールごとに設定可能
LR8450は、測定ユニットごとに「長いデータ更新間隔」と、「短いデータ更新間隔」をそれぞれ設定し同時に測定できます。
この機能により、高速制御信号は1 msの短いデータ更新間隔で計測し、温度などノイズの影響を受けやすい変化の遅い信号は、1 s の長いデータ更新間隔でより強力なフィルタ適応した計測ができます。これにより、高精度なデータ収集が可能になります。
5. 高耐電圧による安全な測定
電気系統を扱う場合、安全な測定が最も重要であり、高耐電圧仕様は安全性を確保する上で非常に重要です。ここでは、高耐電圧による安全な測定の重要性について説明します。
高耐電圧仕様のメリット
高耐電圧仕様により、さまざまな使用用途において安全な測定が可能になり、潜在的な電気的危険から保護されます。例えば電気自動車用バッテリーなど、セルやパッケージングされたバッテリーは、スタック接続された状態で多点の測定が行なわれます。その場合、各入力チャネル間、および対地間にはスタックされた分だけの高電圧がかかってきます。測定器にはこれに耐えるだけの絶縁入力と耐電圧性が要求されます。
- 機器損傷のリスク: 高耐電圧仕様でない測定器を使用すると、過大な電圧レベルにより測定器が損傷するリスクがあります。
- 操作者へのリスク: 電圧レベルが上昇すると、測定操作者に感電の危険が生じる可能性があります。
- 測定対象物の端子間の短絡: 過大な電圧レベルは、バッテリーパックなどの測定対象物の端子間で短絡が発生する可能性があります。
- 爆発の可能性: 極端な場合、高電圧が適切に管理または絶縁されていない場合、爆発やその他の危険な事故が発生する危険性があります。
これらのリスクを軽減し、電気測定中の測定機器と作業員の安全を確保するには、高耐電圧仕様が重要です。
測定中に発生する一般的な問題
配線時間とコストの増加
配線は、複数のチャネルを使用する場合や、測定ポイントがさまざまな場所に分散している場合に、時間とコストがかかる側面があります。
ここでは、配線時間とコストの増加に関連するいくつかの重要なポイントを紹介します。
複数チャネルの面倒な配線
測定ポイントが別々の実験施設にある場合、複数のチャネルに長い配線をする必要があります。この作業は労力と時間がかかります。
時間のかかる配線作業
データロガーと測定対象物間の測定ケーブルの配線作業に時間がかかり、セットアップ作業の遅延につながる可能性があります。
延長配線のコスト
時間に加えて、温度検出に使用される熱電対センサーや電圧測定のケーブルの長さを延長して購入する必要があります。そのため配線部材の費用が増加します。
配線トラブルのリスク
配線が完了しても、「実験中に配線が動いて外れてしまった」など、予期せぬトラブルが発生するリスクがあります。その結果、データ収集が中断され、貴重なデータ収集機会を失う可能性があります。
ワイヤレスモジュールで解決
これらの課題を解決する方法の一つが、無線式の測定ユニットの使用です。無線式の測定ユニットは、測定対象の近くに設置し配線することができます。データロガー本体と測定ユニットを無線通信によりデータ収集することが可能になり、長い測定ケーブルや熱電対の必要性が減ります。
- 長い配線の例とデータロガーと無線モジュールによる使用例
測定値へのノイズの影響
高電圧・高周波でも安定した測定
データロガーでは、ノイズの多い環境での温度測定は高周波ノイズの影響を受けることがあり、測定値のずれや大きな変動が生じて正確な測定が困難になることがあります。HIOKIでは、データロガー設計における長年の経験により、LR8450は高周波ノイズの影響を効果的に軽減し、安定した信頼性の高い測定を保証します。
測定ユニットとデータロガー本体間の無線接続
測定の精度を確保するため、測定ユニットとデータロガー本体間を無線で接続することをお勧めします。この方法は、測定値に対するノイズの影響を効果的に軽減します。無線通信による接続を採用することで、長い熱電対を配線することによるノイズの影響が大幅に軽減されます。この方法により、収集された測定データの安定性が向上し、測定プロセスが簡素化されます。
現地でデータを確認できない
画面表示付きのデータロガーの他に、PCベースのデータロガーや数値表示のみのデータロガーが使用される場合があります。
PCベースのデータロガーの場合、データ収集する測定機器を測定現場に設置してデータを記録します。その後、測定機器をPCのあるデスクに持ち帰り、PCと接続し専用ソフトウェアを使用してデータを確認する必要があります。
または、現場にPCを設置してデータを直接PCに保存することもできます。この場合、測定の信頼性はPCに依存します。
一方で、画面付きのオールインワンロガーには、次のような利点があります。
- 読みやすく理解しやすいディスプレイ: オールインワンロガーの画面表示は、直感的な読み取りができるように設計されており、現地で測定データを簡単に確認ができます。
- 警報状態の監視: 警報機能を備えたデータロガーを使用すると、警報表示から状態を迅速に識別し、警報が発生したときに必要なアクションを実行できます。
- 瞬間値と最大値の表示: 瞬間値や最大値などの重要な数値データを一つの画面で簡単に確認できます。
- 波形の変化の可視化: 波形の変化をリアルタイムで表示できるため、測定プロセスに関する貴重な洞察が得られます。
以上のように、画面表示付きのデータロガーを使用すると、直感的なデータの読み取りと操作性が提供され、現場で簡単にデータを確認および分析できるため、データ収集が強化されます。
自動車業界のデータ記録例
自動車のデータ記録では、車両の動作、性能及び、さまざまなセンサー入力に関連するデータを収集、そして分析が行われています。ここでは、自動車業界におけるデータ記録の重要性と用途に焦点を当てます。
CAN入力とCAN出力
車両の状態の中で測定が難しいパラメータがある場合、CAN バスからのデータを活用することで車両の状態を把握することができます。
ここでは、LR8450とCAN ユニットの組み合わせによるCAN入力とCAN出力の主な機能について説明します。
- アナログ データとCANデータ (入力) の同時表示: 電圧、温度、歪みなどの実際のアナログデータの波形と、車両速度などのCANバスの情報を同時に表示できます。
- 既存システム上のCANデータへのアナログ データの統合: HIOKI データロガー「LR8450及び、CANユニット」は、計測したアナログデータをCAN信号として出力し、このデータをCANバスおよび既存システム上の情報に統合することで、一元管理を可能にします。
- 異常時にCAN信号をアラームとして出力: HIOKI データロガー「LR8450 および CAN ユニット」は、異常が検出されるとCAN信号を警報として出力し、適切なアクションのための貴重な情報を提供します。
- ユニットで測定したアナログデータをCAN信号として出力
お客様の声
測定プロセスが簡素化されました
日本の大手自動車メーカーは、シャシダイナモメータ試験室の配線の複雑さを、HIOKIのLR8450-01を採用することで克服しました。このワイヤレスデータロガーはリアルタイムのデータ確認を容易にし、繰り返しテストの必要性をなくし、試験工程を合理化しました。LR8450-10と測定ユニットの動作温度範囲が広く、ノイズ耐性があり、7つの測定ユニットを無線で接続して、温度と電圧のデータを効率的に収集できます。6か月の導入が成功したことで、追加の機器の検討が促進され、LR8450-01の信頼性と効率性が実証され、試験手順の強化につながりました。
電気自動車のエネルギー効率向上に貢献
電気自動車の開発では、限られたバッテリーを有効活用するため、モーターとインバーターの効率を最適化することが重要です。システム評価においては、車両全体の効率的なエネルギー管理が必要です。そのため、データロガーによる温度や電流などのアナログデータと電力アナライザから取得した電力データを同じタイムラインで統合することは、効果的な管理戦略を策定するために不可欠です。詳しくは次の関連記事をご覧ください。
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まとめ
データロガーに求められる要件は多岐にわたります。HIOKI データロガー LR8450-01は、拡張可能なチャネルと多彩な測定ユニットを備えており、さまざまなデータ収集ニーズに対応する柔軟なシステム構成が可能です。画面表示付きのオールインワンデータロガーと無線式の測定ユニットを組み合わせて、現場での設置と配線を容易にすることができます。解決したい計測の問題や、当社の機器について詳しく知りたい場合は、当社までお問い合わせください。お手伝いさせていただきます。