電気自動車の熱とエネルギー管理
電気自動車(EV)の開発では、エネルギー効率と消費電力の把握が優先事項です。この目標を達成するためには、複数のシステム、特にバッテリー、モーター、インバーターのデータを正確に計測し分析することが必要となります。データロガーやパワーアナライザのような高精度な測定ツールを使用することで、これらのシステムのパフォーマンスを徹底的に理解し、必要な改善施策を施すことが可能になります。
EV開発とデータ収集の基礎
記事内で紹介する主なポイント
必要なデータの種類と計測方法
車両の主要コンポーネントから得られる測定データ(バッテリーの電圧と温度、モーターの効率、インバーターのパフォーマンス)の重要性を把握できます。また、データロガーとパワーアナライザを用いたデータの正確な計測方法についても解説します。
この記事から得られるメリット
データ主導のアプローチがどのように業務効率を改善し、製品の品質向上に寄与するかを解説します。航続距離の延長、充電時間の短縮、全体的なエネルギー効率の向上など、具体的なメリットに焦点を当てます。最終的には、収集したデータをどのように分析し、EVの性能向上に活用するかについてイメージを持つことができます。
この記事を通じて、EV開発におけるデータ収集の重要性と、それを効果的に行うための方法について詳しく説明します。
EV開発に必要なデータ
航続距離を延ばすための重要なステップ
バッテリーの充放電試験
EV開発における核心部分の一つがバッテリーパックの性能評価です。これは主に充放電試験によって行われ、バッテリーパックの充電と放電プロセスを特定の期間にわたって繰り返し行うことで、その性能、耐久性、安全性を評価します。試験の過程で重要なのは、バッテリーの電圧と温度のデータを正確に記録することです。これらのデータの記録には、特に高精度なデータロガーの使用を推奨します。
バッテリーパックの高電圧化
EVの航続距離の延長と充電時間の短縮は、性能向上で欠かせない要素です。これを実現する鍵となるのは、バッテリーパックの高電圧化です。充放電試験では、バッテリーの各セルの電圧と温度を正確に測定することが求められ、これらの正確なデータが、バッテリーパックの全体的な性能評価のベースとなります。そのため充放電試験に用いられるデータロガーには特別な要求仕様があります。具体的には、高い絶縁入力と耐電圧、そして多チャネルへの対応などです。
高電圧用に設計されたデータロガーを選択することで、より安全で正確なデータ収集が保証されます。
バッテリーパックのセル電圧と温度の計測
充放電による評価試験では、バッテリーの特性を把握するために電圧と温度を記録しています。バッテリーパックは多数のバッテリーセルで構成されており、それぞれのセルは直列に接続されています。セルに異常があるとバッテリーパック全体の性能低下を招くため、セル単位の挙動の把握が重要です。セル自体の電圧は数V(約3.7 V)ですが、データロガーの対地間にはセルがスタックされた分だけの高電圧がかかってきます。そのため使用するデータロガーも高い対地間電圧と絶縁性能が求められます。
バッテリーパックは更なる高電圧化により、構成されるセルの数も増えることが考えられます。そのため、使用するデータロガーもチャネル数が拡張でき、柔軟な構成ができる必要があります。
HIOKIのデータロガーは、EV開発における高電圧バッテリーパックの計測ニーズに応える理想的なソリューションを提供します。特に、データロガーLR8101およびLR8102には、高電圧測定に特化したモジュールが用意されています。これらのモジュールは、対地間電圧1500 Vに対応しており、800 V以上のバッテリーパックでも安全にセル電圧の測定が可能です。この特性は、EVのバッテリーパックが高電圧化する最近の傾向において特に重要です。
さらに、これらのデータロガーは測定モジュールを連結することが可能で、柔軟な拡張性を備えています。これにより、バッテリーパックの各セルの電圧や温度を個別に、かつ正確に測定することができるだけでなく、複数のバッテリーパックやその他の電気部品の測定も同時に行うことが可能になります。この拡張性も、複雑なEVシステムの緻密な分析と最適化には不可欠です。
EVのエネルギーロス
電気自動車(EV)においては、エネルギーロスの管理が重要な要素となります。最も重要なモーターやインバーターの効率を最適化することに加えて、更なる省電力を進める取り組みに、DC電流(DCの補機バッテリー)に関する理解が必要です。EV内の電装品は、これらのDC電流を使用し、その消費電流や暗電流は車両の全体的なエネルギー効率に影響を与えます。
DC電流の重要性
DC電流は、EV内の多くの電装品にとって生命線です。これにはECU(エンジンコントロールユニット)、ワイパー、パワーウィンドウ、ヒーター、ヘッドランプ、冷却ファンなどが含まれます。これらの電装品の消費電流や暗電流を正確に把握することが、エネルギーロスを最小限に抑えるために不可欠です。
多点観測の重要性と課題
消費電流や暗電流の多点観測は、数十mAのオーダーでのDC電流を高確度に測定する必要があり、これらを長時間同時に測定することは、簡単な作業ではありません。
HIOKIデータロガーLR8450-01の活用
HIOKIデータロガーLR8450-01は、このような複雑な測定ニーズに対応するために設計されています。このデータロガーは多チャネル対応であり、無線式の測定ユニットを使用することで、測定対象の近くに設置し、配線作業を短縮することができます。
高精度な電流センサー
HIOKIの電流モジュールU8556、ワイヤレス電流モジュールLR8536、そして電流センサーCT7812(2A)、CT7822(20A)は、その小型サイズが特徴です。これらは込み入った配線に容易にアクセスでき、EVの車内のような限られたスペースでも効率的に使用することが可能です。高確度に測定するこれらのツールは、車載での測定にも適しており、EVのエネルギーロスの効率的な監視に役立ちます。結果として、これらのデバイスの使用はEVの全体的なエネルギー効率の向上に役立てることができます。
- AC/DCカレントセンサ CT7812(2 A), CT7822(20 A)
電気自動車の電流検出例
車体のCAN信号と温度・振動などのアナログ信号および、電力データの観測
- モーター、インバーターの効率
EV開発では、モーターやインバーターの効率を最適化することが、限られたバッテリー容量を効率的に使用する鍵となります。ここで重要なのが、パワーアナライザを用いた消費電力データの測定と分析です。このデータは、システムの効率向上を図るための基礎となります。システム全体の最適化とデータの統合
xEVシステムの評価において、車両全体の効率的なエネルギー管理が求められます。これを達成するためには、電力データと併せて温度や振動などのアナログ信号、CAN信号を統合的に分析することが重要です。これらの多様なデータを統合することで、システム全体の性能と効率を高め、航続距離の延伸や乗り心地の向上を実現できます。効率と性能の最大化
EVのモーターやインバーターなど主要コンポーネントの効率を最大化することは、全体的なエネルギー効率に直結します。高速で変動する電力データを正確に捉え、車両全体の状態をリアルタイムで把握することが、エネルギー効率の良いシステム構築のポイントとなります。こうした総合的なデータ分析を通じて、EVの性能向上を図ることが可能です。
- 温度モニタリング
EVにおいては、温度が航続距離に大きな影響を与えます。具体的には、データロガーを用いて温度や電流を計測し、パワーアナライザで消費電力を測定します。温度とエネルギー効率の関連性
EVの温度管理は、航続距離を延長するために中心的な役割を果たします。車両の熱環境を適切に制御すること (熱マネジメント) で、バッテリー効率を最適化し全体的なエネルギー消費を抑制することができます。データの同時性と統合
データロガーとパワーアナライザから得られる情報を同じ時間軸で統合することが、効果的なマネジメント戦略を策定する上で重要です。CAN入力を備えたデータロガーとCAN出力を持つパワーアナライザを連携させることで、温度、電流、電力といった多様なデータを一元化し、より正確な分析が可能になります。効率化への貢献
このような統合されたデータ管理アプローチは、データの整理にかかる時間を大幅に削減し、業務の効率化に貢献します。正確かつ迅速なデータ分析により、EVの性能と航続距離を最適化するための戦略がより迅速に策定され、実行されます。EVにおける温度モニタリングとそのデータ統合は、エネルギー効率の最適化と航続距離の延長において、非常に重要な役割を果たします。正確な温度管理とデータ分析は、EV開発における成功の鍵となる要素です。
- アナログ信号、CAN信号、電力変動を同じ時系列で観測
EVにおけるデータロガー活用のメリット (測定したデータで実現できること)
精度の高いデータは、EVの性能改善に不可欠な洞察を提供します。特に弊社の製品を使用することで、データ収集の精度と信頼性を確保できるという点が大きなメリットです。
航続距離の延長のための熱マネジメントとバッテリーの電圧
EVの航続距離を延長するためには、バッテリーの容量だけではなく、熱マネジメントも重要な要素です。バッテリーの温度はその性能に直接影響を与え、たとえば30℃と40℃の状態で走行した場合、航続距離に顕著な差が生じます。理想的なバッテリー環境は一般に20度から30度の範囲内に保たれるべきで、これを達成するためには熱を効果的に管理する必要があります。これにはバッテリーを適切に温めたり、液冷や空冷システムを用いる方法があります。
バッテリセル電圧の数%の測定精度の違いは、実際には数十キロメートルの差を生じさせることがあります。このため、バッテリーの電圧を正確に測定することが極めて重要です。HIOKIの高精度データロガーを使用することで、このような繊細な電圧変動を正確に捉えることが可能になります。これにより、バッテリーの最適な運用条件を特定し、航続距離を最大化するための戦略を立てることができます。
EVの電力マネジメントの最適化
- 電流センサーを使用したEVの電流検出と、無線入力ユニットによる分散計測点のデータ収集イメージ
EVの複雑な電気システムにおいては、時に予期せぬ電力消費や漏れ電流が発生することがあります。これらはバッテリーの効率低下や、最悪の場合、安全上のリスクを引き起こす原因となり得ます。そのため、これらの問題を迅速に特定し、対処することが不可欠です。
このような状況において、HIOKIのLR8450データロガーは有効なツールとなります。LR8450は、高精度の電流測定を可能にする多チャンネルのデータロガーであり、小さな電流変化も正確に捉えることができます。これにより、車両内の電力システムにおける異常な電力消費や漏れ電流を効率的に特定することが可能になります。
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まとめ
この記事では、データロガーやパワーアナナイザを使った電気自動車(EV)のデータ収集について解説しました。HIOKIのツールを使うことで、航続距離の延長や業務効率化など、多くのメリットを得ることができます。製品の詳細情報や活用事例について知りたい方は、お気軽にお問い合わせください。実績豊富な弊社があなたのビジネスをサポートします。