高電圧、大電流化したパワーコンディショナの変換効率測定

研究開発レベルの高い確度と、持ち運びできる小型軽量サイズを両立

太陽光や風力などの自然エネルギーを用いた発電システムでは、発電された直流の電気を家庭等で使用できる交流の電気へ変換するためパワーコンディショナが用いられます。太陽光発電システムでは高電圧化することで、電力損失を減らしてシステムの発電効率向上が期待できるため、パワーコンディショナの高電圧、大電流化が進んできました。そのため、高電圧、大電流に対応した測定器も必要になっています。
パワーアナライザ PW3390は、近年主流となる1500 Vのパワーコンディショナの電力測定が可能です。小型軽量で持ち運びが容易でありながら、研究開発で用いられる高確度の測定器と同様のレベルでの測定を実現しました。

発電システムの測定における3つの課題

パワーコンディショナのメーカーであるA 社では、高電圧、大電流を測定するパワーアナライザにいくつかの課題がありました。

課題1:高電圧、大電流化に対応できない

高電圧化されたパワーコンディショナの電力変換効率を評価するためには、入力側のDC電圧1500 Vに対応し、電流も数1000 Aという大電流を測定可能な電流センサとパワーアナライザが必要です。しかし、既存のパワーアナライザは、600 Vまたは、1000 Vまでしか対応していません。1500 Vに対応したパワーコンディショナの電力変換効率を求める方法は、高電圧差動プローブや計器用変圧器を用いて電圧を低くしたり、パワーコンディショナについた計器の確認によるものでした。そのため高電圧、大電流に対応したパワーアナライザによる正確な電力変換効率の測定が求められています。

課題2:研究開発と製造現場で測定器の確度に差が出る

パワーコンディショナは、ソーラーパネルで発電した電力を商用交流電源に変換する装置で、性能評価は変換効率で示されます。現在の電力変換効率は95%〜98%前後という高水準です。そのためA社の研究開発の現場では、高電圧、大容量化するパワーコンディショナの電力変換効率を正確に測定することが求められています。開発品が量産の段階になった生産ラインにおいても、研究開発段階と同じレベルの高い確度で電力変換効率を測定し、品質を保証したいと考えていました。しかし、一般的なパワーアナライザは、サイズが大きく移動が容易ではありません。価格も高いため、台数を揃えるには非常にコストもかかります。そのため研究開発とは異なる小型で安価な測定装置を使用することになります。生産ラインで使用している測定装置は、研究開発で用いられている測定装置よりも確度が低く、測定結果に差が生じやすくなります。生産ラインを増やしていくうえで、全ての生産ラインが研究開発の段階と同じ測定レベルで品質を保証することが求められています。

課題3:多チャネルに対応できない

太陽電池モジュールが接続された直流側のチャネル数は、多いものだと10から20チャンネルにもなります。パワーコンディショナの電力変換効率を正確に知るためには、多数のチャネルを同じタイミングで測定する必要があり、多チャネル同時測定の要望が出ていました。今後、チャネル数は更に増えることが予想され、測定器の多チャネル化が求められています。

研究開発から製造現場まで対応可能。測定の課題を解決するPW3390の性能

A社はHIOKIのパワーアナライザ PW3390が、パワーコンディショナの測定における課題を解決する機能を備え、研究開発の現場から、製造現場、フィールドまで、測定場所を選ばず、高確度な電力測定が可能であると判断し採用することを決めました。

高電圧、大電流の測定に対応

PW3390には、最大1500 Vの測定レンジを備えています。高電圧化するパワーコンディショナのDC1500 Vの測定ができ、A社の要望を満たしていました。

電流の測定においても自社で開発した電流センサーを、目的に応じて数多くの種類を揃えていました。系統側の50 Hz/60 Hz なら最大で6000 A測定可能な汎用センサー。直流側なら1000 Aまで測定可能なクランプ型の高確度センサーや、2000 Aまで測定可能な貫通型の高確度センサーを用意しています。

さらに、専用のセンサユニット CT9557と電流センサーを組み合わせて使用すれば、複数の電流センサーの出力波形を加算して出力することができます。これによりPW3390の電流入力は、4条の多条配線のラインで最大8000 A まで可能となり、課題であった大電流に対応した電力変換効率を高確度に測定できます。

研究開発レベルの高い確度と、持ち運びできる小型軽量サイズを両立

PW3390は、片手で持ち運べる小型軽量サイズでありながら、研究開発の段階で性能評価を行うパワーアナライザと、同じレベルの高い測定確度を持っていました。研究開発の現場で使用できることはもちろん、小型で安価であることから製造現場でも同じようにPW3390を使用できるので、研究開発と製造現場での測定差が出なくなります。生産ラインを組む際には、研究開発で使用していたPW3390をそのまま検査装置として組み込めるので、生産ラインを組む時間を短縮できます。さらに、フィールドでも同様に使用できるので、保守点検の現場においても、同様の結果が得られます。

  • P4: DC電力(パネル出力、P123: 三相電力(パワーコンディショナ出力)、η1: 効率、Urf4: リプル率、F1: 周波数、Uthd1: 電圧総合高調波歪、Uurb: 不平効率、Loss1: 損失

4チャネル入力を備え、最大8台(32 チャネル)の同期したデータの取得ができる

PW3390は4つの入力チャネルを備えています。8台のPW3390を専用ケーブルで接続すれば、同期機能を使うことにより制御信号と内部時計が同期します。これにより、PW3390を最大8台接続し32チャンネルまでの同期したデータの取得でき、PCで一元管理することが可能になります。

さらなる高電圧、多回路同時測定への対応

パワーコンディショナは、自然エネルギーを用いた発電システムの普及とともに1500 Vを超え、更なる高電圧、大電流化が進んでいくことが予想されます。また、太陽光発電システムの発電量を最大化するために、マルチストリング型パワコンコンディショナの開発が進んでいます。マルチストリング型パワーコンディショナは、ストリングごとに最大の電力を生み出すための動作点をコントロールします。回路数が増えるため、評価試験では、より多くのポイントの測定が必要です。測定器も、このような状況に対応するため、更なる性能向上が必要です。
HIOKIでは、パワーアナライザと組み合わせることで、最大5000 Vの高電圧を安全に測定 (CAT Ⅱ 2000V,CAT Ⅲ 1500 V) 可能にするオプションAC/DCハイボルテージディバイダ VT1005を用意しています。また、パワーアナライザのフラグシップモデルとなるPW8001 (PW3390の上位モデル) は、最大8chの電力を解析 (表示・記録) できます。

VT1005は、パワーコンディショナやインバーターなどの高電圧を分圧し、パワーアナライザへ出力します。例えば、インバーターの出力側電力に含まれる「基本波」「スイッチング周波数」「高調波」といった成分を正確に捉えることができ、パワーアナライザのフラッグシップモデルとなるPW8001(最大8チャネル入力)と組み合わせることで、SiCパワーデバイスを採用したインバーターの効率改善効果を0.1%レベルで把握できます。

研究開発に限らず、製造現場やフィールドなど、幅広い測定シーンでHIOKIの測定器は活躍できます。デモ機の貸し出しや、サンプル品をお預かりしての測定テストも対応できます。解決したい測定の課題や、気になる測定器などありましたら、お気軽にご相談ください。

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