シームレスなCANデータと実測データの活用例:RDE試験のエネルギー分析を簡素化
WLTP(国際調和排出ガス・燃費試験法)などのラボベースの基準は非常に重要ですが、車両が現実世界でどのように挙動するかのすべてを捉えることはできません。都市の交通渋滞、長距離の高速道路走行、山道の上り坂、こうした現実の走行条件下での車両性能や環境負荷を明らかにできるのは、実走行排出試験(RDE)やEVにおける実走行電費試験だけです。
欧州をはじめとした各国の規制が、内燃機関車に対して実路による検証を義務づける方向に進む中、RDE試験は法規対応だけでなく、開発現場において重要性が増しています。EVについては法的な義務はないものの、実際のエネルギー消費性能により注目が集まる傾向が強まっています。
図1 実路走行における電費・航続距離試験
課題:なぜ実走行の電費・航続距離試験は簡単ではないのか?
実際の走行環境での試験には、以下のような大きな課題があります。
- 高精度な測定器は大型でありながら、車内に設置する必要がある
- 試験機器は振動や温度変化に耐えなければならない
- 電力・電流・温度・CAN信号など多様なデータを1か所に集約し、相関分析を行う必要がある
ケースシナリオ:EV開発チームのリアルドライブ事例
HIOKIのソリューションが持つ可能性を示すため、架空の例を紹介します。 開発中のEVが開発拠点を出発し、市街地、郊外道路、高速道路を含む75 kmの試験走行を行います。
開発チームの主な目的は以下の3つです。
- 1.バッテリーの電力消費を、精度と安全性の両面で確実に測定すること
- 2.市街地、郊外、高速道路における実電費を把握すること
- 3.エアコンの電流消費を追跡すること
図2 実路走行試験のセットアップ
実路走行試験で消費電力を測るための準備
車両の下部など狭いスペースにも安全に取り付けられるクランプセンサ―と、車載に適した小型パワーアナライザ PW4001を使用します。
図3 AC/DCカレントプローブ CT6834を車両下部に取り付けるエンジニア
PW4001は、CANバスから取得した電圧データと、クランプセンサーで取得した電流データを組み合わせることで、リアルタイムに電力を演算します。高電圧端子への危険な接続は不要です。
図4 車内でDBCファイルのCAN IDをPW4001に送信するエンジニア
空調の電流測定には、超小型のAC/DCカレントプローブ CT6831を用いて、微小な電力変動まで確実に捉えます。
図5 車内の密集配線に取り付けられたAC/DCカレントプローブ CT6831
走行中のトレンドデータ
走行中は、PCソフトウェア GENNECT Oneで選択したパラメータのすべてをリアルタイムにモニタリングできます。(図6)
図6 実路走行試験結果(電圧、電流、エネルギー)
走り始めから15分程度は、車内を冷やすために空調には比較的大きな電流が流れています。しかし、車内が冷えた後は、空調の電流はほぼ安定しています。(図7)
図7 実路走行試験結果(電圧、電流)
エネルギーに関しては、山道と高速道路で多くのエネルギーが消費されています。しかし、高速道路の実電費はカタログスペックより良い結果となりました。これは、今回のコースが下り坂中心であったためと考えられます。同様に、市街地に関しても、コースのほとんどが下り坂だったため、消費エネルギーは非常に少なくなりました。(図8と表1)
図8 実路走行試験結果(エネルギー)
表1 消費エネルギー結果(電費)
エリア | 消費エネルギー(走行距離) | 電費 |
---|---|---|
山道 | 3.669 kWh (23 km) | 159 Wh/km |
高速道路 | 4.298 kWh (42 km) | 102 Wh/km |
市街地 | 0.462 kWh (11 km) | 42 Wh/km |
試験全体でのパワートレインの消費エネルギーは11 kWですが、そのうちの約40%にあたる4.5 kWを回生エネルギーとしてバッテリーに回生(充電)できています。(表2)
表2 消費エネルギー結果(消費エネルギーと回生エネルギー)
パラメーター | 結果 |
---|---|
Wh_Powertrain (consumption) | 11.078 kWh |
Wh_Powertrain (regenerative) | -4.581 kWh |
Wh_AirCinditioner (consumption) | 1.948 kWh |
Wh_Total (consumption) | 8.444 kWh |
図9 車内のノートPCでリアルタイムのテストデータを確認するエンジニア
試験後のデータ活用
走行後、収集したデータは中央サーバにアップロードします。GENNECT Oneにより、電圧、電流、電力・エネルギー・CANデータなどの相関分析を直感的に行うことができます。
例:
- 市街地、高速道路、その他の道路における実電費とカタログスペックの乖離
- 空調をAUTOモードにした時の省エネルギー効果
- パワートレインの消費エネルギーと回生エネルギーの比率
こうした知見は、次期車両の制御アルゴリズムや熱設計の改善に直結します。
なぜHIOKIの統合ソリューションなのか?
HIOKIは、実走行テストの現場で次のような卓越した価値を提供します。
- PW4001:
高精度な電力測定、安全な測定 - CT6834:
信頼性の高いクランプ型電流センサー - CT6831:
微小電流の確実な測定 - GENNECT One:
データ統合とデータ分析を容易にするプラットフォーム
結論
実走行テストは単なる規制対応ではありません。次世代車両の真の性能を引き出すための重要な手段です。コンパクトで堅牢、そして高精度。HIOKIの測定機器は、車載計測の課題に応えるために設計されています。
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