部分放電とは
はじめに
部分放電は、電気機器の内部で発生する微小な放電現象です。この現象は、特に絶縁材料が劣化しているときに起こりやすく、電気機器の性能に大きな影響を与える可能性があります。例えば、モーターや発電機などの電気機器では、絶縁材料が高電圧にさらされると、部分放電が発生することがあります。繰り返し発生する部分放電により絶縁材料は徐々に劣化し、最終的に絶縁破壊による故障を引き起こすことがあります。そのため、電気機器の製造時に、部分放電を検出し絶縁性能の高い製品のみ出荷することや、定期的に絶縁不良を点検することが重要です。
本記事では、部分放電を中心とする放電現象と部分放電の検出方法について解説します。
さまざまな放電現象
空気で絶縁された電極間に電圧をかけると (Fig. 1)いくつかの現象が起こります (Fig. 2)。最初の段階(0からAの区間)では、電圧の上昇に伴い電流もそれに合わせて増えます。しかし、AからBの段階に入ると、電子やイオンの数が変わらないため、電流は増えません。この状態でさらに電圧を上げると、B点を超えたところで「衝突電離」という現象が始まります。これは、電子が空気中の分子に衝突して、さらに新しい電子を作り出す現象です。BからCの段階では、部分放電やコロナ放電といった不連続な放電が起こりますが、これはまだ絶縁破壊されていない状態です。コロナ放電は局部的に高電界を生じる電極付近で起こる放電で、音や微光を発します。印加電圧がC点を超えると、火花放電が起こり、絶縁破壊された状態となります。これにより連続的に放電が続くようになります。
Fig. 1 絶縁電極間での放電現象
Fig. 2 部分放電とその他の放電タイプの電圧-電流特性
部分放電:すり鉢状キズ(気体部分)に発生した部分放電
コロナ放電:局部的に高電界部が形成される電極付近で起こる部分放電。音や微光を発する
火花放電:電極間を橋絡する短時間の放電現象。コロナ条件を満たさない状態で高電圧になると発生する
グロー放電、アーク放電:さらなる高電圧で絶縁が破壊され、電極間に連続した導電路が形成される放電現象
モーターステーター内での放電
Fig. 3はステータのコイルとコア間に高い交流電圧を印加した際に撮影された写真です。絶縁を維持するための絶縁紙が青白く発光しており、これは「部分放電」と呼ばれる現象です。このステータは正常な状態ですが、1.8kVの電圧で部分放電が確認されました。
Fig. 3 良品 - 放電電圧1.8kVrms
一方、ステータの絶縁紙がずれている状態(不良状態)では、1.3kVの電圧で「コロナ放電」が観測されました。絶縁状態が悪化すると、より低い電圧でも部分放電が発生する可能性があります。
Fig. 4 絶縁紙をズラした状態 - 放電電圧1.3kVrms
部分放電による絶縁体の劣化
モーターやトランスなど幅広い用途で使用されるエナメル線(マグネットワイヤー)を例に部分放電による問題について考えてみましょう。エナメル線は、銅線を固体絶縁物質であるエナルで覆った被覆線です (Fig. 5)。エナメル被覆内には、ボイドという空隙ができることがあります。
Fig. 5 ボイドのあるエナメル被覆線
銅線に高い電圧をかけると、誘電率の低いこのボイド部分に電界が集中します。このため、ボイド中で部分放電が起こり、絶縁体の溶解や化学反応を生じることにより絶縁体が劣化します(Fig. 6)。この劣化が進むと、最終的に絶縁破壊が起こります (Fig.7)。絶縁破壊前に部分放電の状態を早めに見つけるために行うのが部分放電試験です。
Fig. 6 ボイド中での部分放電
Fig. 7 絶縁破壊
部分放電試験器の導入
インバーター駆動モーターの部分放電試験は開発・評価段階だけでなく、生産ラインやメンテナンスにおいてもとても重要です。高効率化するインバーター駆動モーターシステムでは、インバーターのスイッチング電圧が高くなる傾向にあります。モーターにはスイッチング電圧の2倍を超えるサージ電圧が加わり、部分放電が発生しやすくなっています。部分放電は絶縁劣化を急速に進行させるため、モーターの信頼性確保において、その試験は不可欠なものとなっています。
HIOKIの部分放電検出器ST4200は、絶縁破壊に至る潜在的な不良箇所で起こる部分放電を検出できます。モーターの巻線間試験は、サージ電圧に対する耐性試験であるため、インパルス電圧を用います(Fig.7)。一方、相間および各相-コア間の試験は、AC高電圧を用います(Fig.8)。ST4200は、これらの両方の試験を1台で実行できる部分放電検出器です。
- Fig. 8 ACPD試験
- Fig. 9 インパルスPD試験
電気機器の信頼性向上に不可欠な部分放電。その試験方法や活用方法についてさらに詳しく知りたい方は、ぜひ関連記事も併せてお読みください。
HIOKIでは、部分放電試験に加え、モーター関連の計測ソリューションを豊富に取り揃えています。モーター計測に関するお悩みは、ぜひお気軽にご相談ください。