インバーターモーターの部分放電試験が必要な理由とは
インバーター駆動モーターの部分放電試験
電気自動車(EV)などに搭載されるインバーター駆動のモーターは、スイッチング動作により瞬間的な高電圧が加わります。巻線部分に部分放電の発生が長期間続くことで絶縁劣化が進み、短絡や絶縁破壊により発火などの重大な事故につながる危険性があります。 製造段階の絶縁抵抗測定による絶縁性能の確認や、耐圧試験(耐電圧試験)による絶縁破壊の有無を確認する検査に加え、潜在的な絶縁不良を発見する部分放電試験は、モーターの品質と安全性をより向上させることができます。 車載部品の高品質化要求に応えるため、モーター巻線の製造段階で行われる検査工程は重要であり、出荷前に不良を発見する検査システムは不可欠です。
インバーター駆動モーターで部分放電試験が必要な理由
モーターを駆動するインバーターの電圧は、高速にスイッチング動作を繰り返す波形です。 スイッチング動作のたびにスイッチング電圧の約2倍以上のサージ電圧が発生し、モーター内の巻線間に瞬間的な高電圧が加わります。このサージ電圧の繰り返しが巻線の絶縁劣化を加速させます。
一般的に、適切な絶縁がされていない巻線に約350 Vを超える電圧がかると部分放電が発生すると言われています。モーター巻線に絶縁性が低下した箇所があると部分放電が発生し、それが長期間継続すると絶縁劣化が進みます。この部分放電による絶縁劣化が、短絡や絶縁破壊による発火などの重大な事故につながる原因となります。 部分放電試験は「部分放電」という劣化要因を出荷前の段階で発見し排除することができます。従来より行われている絶縁抵抗測定、耐圧試験、レアショート試験(インパルス試験)では絶縁破壊に至る前の潜在不良を発見できません。
部分放電試験を、従来の検査システムに追加し信頼性の高い試験結果を得るにはいくつかの技術的障壁が存在します。さらに、生産ラインの担当者は、投資費用、検査時間、設備メンテナンスを考慮した最適な検査システムを実現することが求められます。
部分放電試験導入における課題
生産ラインでの部分放電(PD)試験は、環境ノイズの影響を受けることがあり、測定結果の再現性が低下することがあります。一般的に用いられる電磁波検出方式は、ノイズを拾いやすく、特にノイズの多い生産ラインでは問題を生じることがあります。
モーター検査の効率化を図るために、複数の試験を1か所で行う生産ラインでは、検査システム内の配線が複雑になり、これまで以上に環境ノイズを拾いやすくなります。さらに効率化が進んだ生産ラインでは、複数のモーターを同時に検査することが一般的となり、その結果、煩雑化する検査システム設計によりノイズの影響がより顕著になります。
信頼性の高い部分放電試験の実施とモーター試験システム設計を行うためには?
モーターステーター内の潜在不良を検出するために、AC PD試験とインパルスPD試験という二種類の試験が実施されます。AC PD試験では、耐電圧試験器と専用の部分放電検出回路を用いて、検出された部分放電を定量化します。また、環境ノイズの影響を抑えるためにバンドパスフィルターが使用されることがあります。インパルスPD試験では、インパルス巻線試験器を用いて、インバーターサージを模擬し、サージ電圧への耐性を評価します。それぞれの部分放電試験の試験方法などの詳細はIEC規格で規定されていますが、検出する潜在絶縁不良は異なるため、両方の部分放電試験を実施することで、より多角的に潜在不良を評価することができます。生産ラインなどのノイズの多い環境でのインパルスPD試験では、高周波CTを用いた部分放電検出方式は、電磁波検出方式よりも測定の安定性を高めます。
最新のモーター検査ラインでは、部分放電試験はその他の試験とあわせて1つの測定ステージで、時には複数のモーターで同時に行われることがあります。リレーボックスは、高電圧試験と低電圧試験を切り替えることにより、これらの複数の試験を統合します。ただし、計測器間の安全なスイッチングと正確な測定を可能にするリレーボックスの設計には、慎重な検討が必要です。漏れ電流とノイズ干渉を最小限に抑え、信頼性と安全性の高い切り替え行うためには、材料の選択、堅牢なハードウェア設計、最適化された配線が不可欠です。さらに、高電圧リレーの耐久性は、頻繁な交換が生産効率に大きな影響を与えるおそれがあるため考慮する必要があります。厳しい絶縁要件を満たす耐久性のある高電圧リレーを選択することは、ダウンタイムを抑えるために有効です。
効果的な部分放電試験を実現するHIOKIの部分放電検出器 ST4200と高電圧リレーボックス SW2001
多様なシステム構成に対応可能
部分放電検出器 ST4200と高電圧リレーボックス SW2001を組み合わせることで、複数の試験項目と試験対象のモーターを安全に切り替える自動検査システムの構築が可能です。AC PDとインパルスPDの検出センサーをSW2001に内蔵し、シンプルなシステム構成を実現します。測定対象はステーター巻線だけでなく、温度センサーも含みます。所有する測定器を利用することも可能ですが、HIOKIの計測器に統一することで、計測や校正に関する全般的なサポートを受けることが可能です。 お客様の要望する試験項目、試験対象のモーター側の接続端子数、温度センサーの数に合わせて最適な構成をご提案します。
部分放電検出器 ST4200
ST4200は、AC部分放電(AC PD)試験とインパルス部分放電(インパルス PD)試験が行える独立した部分放電検出器です。耐電圧試験器、インパルス巻線試験器から試験電圧を印加し、PDセンサーで部分放電を検出します。 バンドパスフィルター機能を搭載し、また高周波CTを用いることでノイズに強い部分放電検出を行います。IEC規格に基づく部分放電検出と各種部分放電パラメーターを測定します。数値と波形をリアルタイムに観測でき、測定データは内部ストレージへ保存できます。
ACPD測定:IEC 60270, IEC 60034-27-1
PDIV, PDEV* およびIEC規格が規定する項目
*耐電圧試験機3153との連携時のみ
インパルスPD測定:IEC 61934, IEC 60034-27-5
RPDIV, RPDEV, PDIV, PDEV, およびIEC規格が規定する項目
表示機能
電圧波形、PDパルス モニター
保存機能
自動保存:データシリーズ、SBSグラフ画像
保存先:SSD, USB, SD
高電圧リレーボックス SW2001
SW2001は高電圧試験の絶縁抵抗試験や耐圧試験、レアショート試験だけではなく、4端子低電圧測定の巻線抵抗測定やインダクタンス測定にも対応。6種類の検査を統合できる高電圧リレーボックスです。 保護放電機能を搭載しており、高電圧試験と低電圧試験を安全に切り替え、測定器とDUTの破損を防ぎます。
チャネル数(試験対象の接続端子の数)
SW2001-04 (4CH), SW2001-08 (8CH), SW2001-16 (16CH), SW2001-24 (24CH)
入力定格
· 耐圧試験器:AC 5 kV rms, DC 5 kV, 7.071 kV peak
· インパルス試験器:8 kV peak
· 低電圧4端子入力:AC 30V rms, DC 60 V, 42.4 V peak
許容最大インパルス電流
100 A peak
リレー寿命
開閉回数 500万回以上(参考値)
測定確度への影響
· 絶縁抵抗測定の確度影響:2%(1 M~1 GΩ)
· AC PD測定への影響量:40 pC以下(3 kV印加時)