データセンターのコミッショニングと5段階の試験プロセス
データセンターの信頼性と電源
インターネットをはじめとしたITコミュニケーションは、いまや私たちの生活に欠かせない重要な社会基盤です。データセンターは、ウェブサイト、AIアプリケーション、データストレージなど情報サービスのサーバーやネットワークシステムを収容する設備です。あらゆるITサービスのために24時間365日安定して稼働し続けることが非常に重要であり、数秒の障害でも社会に重大な影響を及ぼす可能性があります。 この記事ではデータセンターの種類とコミッショニング試験について説明し、その信頼性維持に電気計測器が果たすいくつかの役割を紹介します。
データセンターと変電所
データセンターを構成する主要な設備
データセンターの主要なインフラ設備は、主に電源設備、空調設備、IT機器の3つのカテゴリーに分けられます。
- 1.電源設備
- 2.冷却空調設備
- 3.サーバー、ネットワーク機器
電源設備(変電所、UPS、発電機)
データセンターではサーバーやストレージシステムが24時間稼働しています。これらのIT機器はクリーンで安定した電力を前提としており、瞬間的な停電でもシステム障害やデータ損失を引き起こす恐れがあります。安定した稼働のためにデータセンターは安定的でバックアップ可能な電源システムを採用しています。
安定化を見据えた電源システムの構成要素は以下の通りです
- 近接した変電所からの電力共有。より近くに安定した電力網を配置します。
- UPSシステム。短期間の停電や、長期間停電の初期数分間はUPSが電力供給をカバーします。
- ディーゼル発電機(Genset)長時間の停電時には発電機が電力を供給し続けます
これらのシステムはいずれも冗長化され、一つが故障しても別のユニットが即座に引き継ぐよう設計されていることが理想です。
冷却空調設備(エアコン、チラー、コールドアイル、ホットアイル)
サーバーは消費電力に応じて熱を発生します。発熱によりサーバー内部温度が上がると故障や停止につながるため、安定稼働のために冷却が必要です。コールドアイル/ホットアイル方式はサーバーの吸気と排気の経路を遮断し、冷気供給と熱気排出の混合を防ぐ冷却方式です。データセンターの消費電力増大は課題のひとつであり、大規模施設の消費電力における冷却空調の割合は、決して小さくはありません。冷却効率の改善はデータセンターの安定稼働と省エネルギーの両面から、非常に重要と言えます。
サーバー、ネットワーク機器(サーバー、GPU、PDU、ラック)
データセンターの中核となるIT機器設備は、ラックが主要な構成単位となります。
- サーバーやGPUなどの計算ノード
- 電力分配ユニット(PDU)
- ネットワーク機器と構造化配線
近年はAI処理の増加によりサーバーの高密度化が進み、1ラック当たり10 kW〜20 kW級の電力を消費するケースも増えています。そのためサーバー電源には大電流駆動や負荷の急激な変動への対応が求められており、電圧レギュレーターや多相コンバーター、MLCCといった高性能な電源部品の需要も高まっています。
データセンターの冗長性
データセンターは金融取引やクラウドサービスなど停止が許されないサービスを支えるため、稼働時間が重要な指標となります。信頼性の高いデータセンターほどダウンタイムが短くなり、最もハイレベルな信頼性を備えたデータセンターに許された停止時間は、年間でたった数十分です。設備、特に電源供給設備においては障害時でも運用を継続できるように、代替可能なバックアップシステムにより冗長化が図られています。最高水準の構成では、電源系統を送変電の段階から2系統に分離し、受電線・発電機・UPS・配電設備まで独立させて冗長化しています。

冗長化の例。2系統の独立した電力供給系統が接続されている。
コミッショニング試験
新設のデータセンターでは、多数の機器とシステムが正しく連携して動作することを保証するため、コミッショニングと呼ばれる検証プロセスが必要です。
コミッショニングプロセスはLevel 1からLevel 5の5段階で構成されます。個別機器の工場試験、現場での据付確認、単体試験、システム/サブシステムの試験へと進み、最終的に実負荷での総合運転試験で完了します。各段階で測定機を用いて検証し、動作が設計通りかを確認します。レベルごとの確認内容の詳細は施主やディベロッパーごとに要求仕様が違うことがあるため、都度確認が必要です。

Level 0:設計レビュー
関係者はデータセンターの設計計画レビューにより、設計仕様が施主の要求を実現しているかを確認します。この段階で問題を発見することが最も費用対効果が高いため、重要なプロセスです。
Level 1:工場立合い試験(FAT)
個々の機器が性能仕様を満たしているかを検証するために、現場に届く前にメーカーの工場で実施される工場立ち合い試験(FAT: Factory Acceptable Test)です。機器に不具合や仕様逸脱がないか確認し、現地据付後の手戻りをなくします。
Level 2:据付確認
Level 1(FAT)で工場試験を終えた機器は、現場へ輸送され設置されます。輸送中の振動や設置作業時の損傷や性能変化がないか、安全のために通電前の物理的な設置状態を確認します。
Level 3:単体試験
現場に設置された個々の機器が仕様通りに動作するかを確認します。機器の動作を個別に確認することで、システム連携後に生じたトラブルに対して原因の切り分けを迅速に行えるようにします。
Level 4:システム試験
実際の設置環境で各システムに電力や負荷をかけ、設計通りに機能するかを検証します。この段階ではシステム間の連携は行わず、各サブシステムを個別にテストします。
Level 5:統合システム試験(IST)
すべてのシステムを同時に稼働させ、データセンター全体が設計通りに機能するかを確認します。停電(ブラックアウト)や大規模な負荷変動が起きたときなど、さまざまな状況の障害シナリオ試験を行います。UPSやPDUの故障、複数機器の同時故障など、現実的かつ最悪のシナリオをシミュレートします。
HIOKIの計測ソリューション
コミッショニング試験におけるHIOKIの数多くのソリューションから、一例を紹介します。
UPS、Gensetの動作試験
統合システム試験の代表的なシナリオとして、主電源の電源喪失シミュレーションがあります。データセンター稼働中に主電源を遮断すると以下が行われます。
- 全UPSが即座にバッテリーモードに切り替わり負荷を維持
- 全発電機が起動し、数秒以内に負荷を引き継ぐ
また、停電中にさらにバックアップラインが停止するケースなど、最悪のケースも想定したシミュレーションを行います。
電源バックアップの概略図:商用電源が停止した場合、UPSが数分間のバックアップ時間を提供し、その間に発電機が起動する。結果としてデータセンターにはダウンタイムが発生しない
PQ3198を用いた負荷変動試験の例:負荷電流の変動にかかわらず、電圧は安定した値を維持する
バックアップ機器の工場立合い試験
GensetやUPSなどのバックアップ機器は、工場出荷前に立会検査を行います。主な検証項目は以下の通りです。
- 電圧と周波数の安定性
- 切り替わり時の過渡応答
- 高調波
- 効率
試験には電源品質アナライザーやパワーアナライザー、メモリハイコーダなどの測定器が使用され、国際規格に沿った試験を行うこともあります。
発熱による事故や故障を未然に防ぐボルト締結確認
大量の電力を消費するデータセンターでは、バスダクトやブレーカー接続部に大電流が流れます。ボルトの締め付け不足があると接触抵抗が高くなり、過熱や火災の原因になります。HIOKIのポータブル4端子抵抗計を使用すれば、ミリオームレベルの微小抵抗測定により、ボルトの確実な締結を確認できます。
まとめ
データセンターは現代社会のIT基盤を支える重要施設であり、24時間365日の安定稼働が求められます。特にハイパースケールデータセンターでは、冗長性を確保した極めて高い稼働率が求められています。コミッショニング試験は5段階のプロセスによる検証を通じて、重要なシステムが設計通り安定的に機能することを確認します。
HIOKIの計測機はプロセス全体を通じてソリューションをを提供し、信頼性の高い検証をサポートします。正確で確実な計測はデータセンターの安全で安定した高い稼働の確立に貢献します。



