SiC/GaNモーターの効率測定で高周波リンギング電力が重要になる理由

はじめに

低負荷域でモーター効率を測定した際に、100%を超える値が得られたことはないでしょうか。あるいは、測定した効率と想定していた値との間に、ずれが生じたことはないでしょうか。

SiCやGaNスイッチングデバイスの高速な電圧立ち上がりによって、MHz帯まで及ぶ高周波の電圧・電流成分が励起されることがあります。このような周波数帯では、パワーアナライザーだけでなく電流センサーも含めた測定系全体の帯域幅と位相特性が、有効電力の測定確度に直接影響します。

また、ローパスフィルターを使用すると、測定される有効電力に寄与している高周波の電圧・電流成分まで除去してしまう場合があります。測定系がこれらの成分を十分に捉えられないと、モーターの入力電力が実際より小さく測定され、その結果、算出される効率が高くなることがあります。

本記事では、このような測定上の問題を引き起こす要因の一つとして、高周波リンギングに伴う有効電力に着目します。さらに、パワースペクトル解析(PSA)によってこの電力成分をどのように確認できるのか、また、なぜ低負荷域ほど測定系の広帯域性能が重要になるのかを解説します。

リンギング電力:リンギング周波数に現れる有効電力 [1], [2]

インバーターの高効率化、高出力密度化に伴い、より高速にスイッチングできるデバイスの採用が進んでいます。特にSiCやGaNなどのワイドバンドギャップ(WBG)半導体は、従来のSi系スイッチングデバイスと比べて電圧の立ち上がり時間を短くできます。
この高速な電圧立ち上がりによって、モーターやインバーターとモーター間のケーブルが持つ寄生成分による共振が励起されることがあります。その結果として生じる過渡的な振動がリンギングです。

  • 図1 スイッチング時の電圧立ち上がり時間とリンギングの関係
    左:立ち上がりが緩やかで、リンギングが小さい場合
    右:立ち上がりが速く、リンギングが発生している場合

リンギングに伴う高周波の電圧・電流成分には、リンギング周波数における有効電力が含まれる場合があります。ここでは、この有効電力成分をリンギング電力と呼びます。
リンギング電力がモーター入力電力の一部に含まれる場合、総入力電力を正しく測定するためには、測定系がこの成分も捉える必要があります。

リンギング電力が発生する仕組み

モーター巻線1相分を表す簡略化した等価回路を考えます。

  • 図2 モーター1相分の簡略等価回路

ケーブルのインダクタンスとモーターのキャパシタンスの相互作用によって、特定の周波数で共振が生じます。スイッチングによって共振回路に振動が発生し、モーター端子に高周波の電圧・電流振動が現れます。
リンギングはインバーター出力側とモーター端子側の双方に現れることがあり、その振幅はケーブルおよびモーターのインピーダンス特性によって異なります。

  • 図3 インバーターモーター系でリンギングが現れる代表的な箇所

次の波形は、インバーター出力側で観測されたリンギングを拡大したものです。

  • 図4 インバーター出力側で観測したリンギング波形の拡大表示(PW8001 + U7005 + CT6904A)
    ピンク色:U-V線間電圧、白色:U相電流

従来のモーター電力測定でリンギング電力を捉えきれない理由

インバーターのスイッチング素子には、長年にわたりIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が広く使用されてきました。従来のIGBTを用いたモータードライブでは、SiCやGaNデバイスと比較して電圧立ち上がりが一般に緩やかです。そのため、従来のモータードライブにおける電力測定では、MHz帯までの性能が測定系に必ずしも求められてきませんでした。
一方、SiCやGaNなどのWBG半導体はスイッチングが高速であり、インバーターとケーブル、モーターで構成される系に、より高い周波数の共振を励起することがあります。

下図は、インバーター出力、すなわちモーターへの電気入力で測定される電力を周波数成分ごとに概念的に示したものです。緑色で示すリンギング電力は、ピンク色で示すキャリア周波数成分やその高調波よりも高い周波数帯に現れます。
このような高周波領域では、電圧・電流の力率が低くなることがあります。そのため、電圧測定系と電流測定系の間にわずかな位相誤差があるだけでも、有効電力の測定値に大きな誤差が生じるおそれがあります。

  • 図5 周波数ごとの有効電力成分の概念図

低負荷ほど高周波電力が重要になる理由

スイッチング周波数成分、高調波、側帯波、リンギングに伴う電力成分は、その大きさこそモーターが高負荷動作か、低負荷動作かによって変化するものの、さまざまなモーター動作点で存在します。
低負荷になると、基本波成分のモーター入力電力が小さくなります。その結果、高周波成分が総入力電力に占める割合は相対的に大きくなる傾向があります。
したがって、これらの高周波電力成分に測定誤差があると、低負荷域では算出されるインバーター効率やモーター効率への影響がより大きくなります。

  • 図6 低負荷では、高周波の有効電力成分がモーター総入力電力に占める割合が大きくなる傾向がある

SiC/GaNインバーター・モーター測定に求められる測定系の性能

高周波電力を正確に測定するには、対象となる周波数帯域に対して十分な帯域幅を確保するとともに、位相特性が明確に規定されていることが重要です。
これはパワーアナライザー単体の性能だけではなく、電流センサーを含む測定系全体に求められる条件です。

PW8001と入力ユニットU7005の組み合わせは5 MHzの測定帯域を備えています。また、電流センサCT6904Aは4 MHzの帯域を備えています。さらにHIOKIでは、パワーアナライザーと電流センサーを組み合わせた状態での位相特性も規定しています。

このような特性により、位相誤差が演算電力値に直接影響する高周波・低力率条件においても、有効電力を高確度に測定できます。

パワースペクトル解析(PSA)によるリンギング電力の可視化

一般的な高速フーリエ変換(FFT)解析では、主に電圧や電流の周波数スペクトルを確認します。これに対してパワースペクトル解析(PSA)では、電圧・電流スペクトルに加えて、周波数ごとの有効電力を算出できます。
これにより、有効電力がどの周波数帯に存在しているのかを確認するとともに、それぞれの周波数成分に含まれる電力を定量的に評価できます。
この機能を使用し、以下の条件でSiCインバーターを測定しました。

  • スイッチング周波数:30 kHz
  • モーター回転速度:1000 r/min

PSAによる測定結果では、1 MHz~2 MHz帯にリンギング電力が確認されました。

  • 図7 観測されたリンギングに対応する約1 MHz~2 MHz帯に存在する有効電力成分をPSAで確認

観測されたリンギングと同じ周波数帯に有効電力成分が存在することが分かります。

モーター効率マップによる測定結果の比較

HIOKIの測定システムと、別のパワーアナライザーおよび電流センサーを組み合わせた測定システムを比較しました。以下では、この測定系を競合Aと表記します。

測定構成

  • 図8 測定ブロック図
測定システム競合 AHIOKI
パワーアナライザーの帯域最大2 MHzPW8001 + U7005*5 MHz
電流センサーの帯域約300 kHzCT6904A:4 MHz
電流センサーの位相補正補正値を手動入力自動位相補正
フィルターOFFOFF

その他の設定(両測定共通)

  • 測定間隔:200 ms
  • 同期ソース:I1(インバーター電流)

CT6904Aについては、PW8001による電流センサの自動位相補正を適用しました。競合Aの電流センサーについては、メーカーから提供された補正値を手動で入力しました。

DUT情報

  • テストモーター:Fuji Electric Co., Ltd. GNF2117A
  • インバーター:Myway Plus Inc. MWINV-5044-SIC
  • スイッチング周波数:30 kHz
  • DC入力電圧:300 V

測定結果

  • 図9 モーター効率マップ
    左:競合Aのパワーアナライザー+電流センサー
    右:PW8001+U7005+CT6904A
    青色のマーカーは、表1に示す動作点を示しています。

表1
27 N·m、803 r/minにおけるモーター効率測定結果

項目競合AHIOKI
機械出力2,303 W2,289 W
モーター入力2,290 W2,505 W
モーター損失-13 W216 W
算出モーター効率100.6%91.4%

27 N·m、803 r/minの動作点では、両測定系で機械出力は14 W程度の誤差でほぼ一致しました。一方、測定されたモーター入力には215 Wの差があり、競合Aでは2,290 W、HIOKIの測定系では2,505 Wでした。
この違いにより、算出されたモーター効率は、競合Aでは100.6%、HIOKIでは91.4%となりました。
ただし、この比較だけでは、測定値の差を生じさせた原因を単一の誤差要因に分解することはできません。
競合Aでは帯域が約300 kHzの電流センサーを使用している一方、PSAで観測されたリンギングに伴う有効電力成分は1~2 MHz帯まで及んでいました。そのため、測定帯域や位相特性の違いは、高周波有効電力の測定値、ひいては算出されるモーター効率に影響を与える可能性があります。

HIOKIの測定システムは、PW8001、U7005、CT6904Aを組み合わせることで、パワーアナライザの5 MHz、電流センサの4 MHzの帯域に加えて、電流センサの位相補正に対応しています。これらの特性により、高周波かつ低力率の成分が含まれる条件での測定誤差を抑えることができます。

まとめ

SiCやGaNデバイスによってスイッチングの高速化が可能になる一方、モータードライブの電力測定に関係する成分は、従来の測定系では十分に捉えきれない高い周波数帯まで広がる場合があります。
リンギングは、単なる波形上の現象ではありません。リンギングに伴う電圧・電流成分には有効電力が含まれる場合があり、PSAを使用することで、その電力がどの周波数帯に存在しているかを把握できます。
とくにモーターの低負荷域では、電気入力電力そのものが小さくなるため、高周波電力の測定誤差が算出効率に大きく影響するおそれがあります。
したがって、モータードライブの電力を正確に測定するには、パワーアナライザーの帯域だけでなく、電流センサーの帯域や位相特性を含めた測定系全体の性能を評価することが重要です。

SiC/GaNモーターの効率測定において、低負荷域で想定外の測定結果が見られる場合は、測定系の帯域や位相性能についてHIOKIにご相談ください。

詳しい製品の情報は、Webサイトをご覧ください。
特定のアプリケーションに関するデモンストレーションやご相談は、お問い合わせフォームから弊社までご連絡ください。

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引用文献

[1] M. Akahane, K. Hayashi, and K. Akatsu, “Proposal and Validation of a Ringing Loss Analysis Model for PWM Inverter-Driven Motor Systems,” presented at the International Power Electronics Conference (IPEC-ECCE Asia), Nagasaki, Japan, May–Jun 2026.

[2] M. Akahane, M. Nakamura, K. Hayashi, S. Yamada, and S. Obara, “Evaluation of effect of motor bench system on motor and inverter efficiency measurement using precision wide-band power analyzer,” IEEE Energy Conversion Congress and Exposition (ECCE), 2025.

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