リアクトル損失測定における測定誤差の要因と高精度測定のポイント
リアクトルとは
リアクトルは、誘導コイルを使用した部品であり、突入電流や高周波の抑制、電流の平滑化などに利用されます。主にDCリアクトルとACリアクトルの2種類があり、力率改善回路(PFC回路*1)や降圧/昇圧チョッパ、フィルター回路に利用されています。
電子部品分野ではインダクターと呼ばれることが多いですが、電力系統分野やインバーターなどのパワーエレクトロニクス分野ではリアクトルと呼ばれています。
*1:Power Factor Correction の略。電源装置やインバーターなどに組み込まれ、入力電流の波形を整えて力率を高めるための回路のことを指します。
リアクトルを使用した代表回路
DC/DCコンバーターの昇圧チョッパ回路
従来はHEVのモーター出力増強に使われてきましたが、近年はEVやFCV(燃料電池車)での搭載が増加傾向にあります。また、太陽光発電におけるパネル電圧の昇圧にも使われています。

AC/DCコンバーターにおけるインターリーブPFC
データセンター用のAC/DCコンバーターやエアコンのPFC回路、EVの充電回路などに搭載されています。

いずれの回路もスイッチング素子としては主にIGBTが用いられており、スイッチングは~20 kHz程度が主流でしたが、近年ではスイッチング素子としてSiCやGaNが用いられ、高耐圧化、高スイッチング化が進んできています。
このように、リアクトルはパワーエレクトロニクス分野の中でも非常に身近で重要な存在であるといえます。
リアクトル損失測定の必要性
現在、パワーエレクトロニクスをはじめとする市場では電気エネルギーの有効活用のため、電源の小型化、軽量化、低損失化が求められています。
その中でもリアクトルのような受動部品は、電源全体の体積、重量ともに多くのウェイトを占めており、インバーターを含むシステム全体の効率が上がる中で損失の大きさも無視できなくなっています。したがって、リアクトル損失を正しく測定して把握しておくことは、設計改善や効率向上、電源の高性能化のために欠かすことができません。
リアクトル損失測定における課題
LCRメーターを使用した測定方法
電子部品においてインダクターの測定はLCRメーターで行うことが一般的です。しかし、リアクトルにはレベル依存性があり、入力信号が大きいと、磁束密度が高まって損失特性が変化します。そのため、小信号の測定では実際の損失や挙動を再現できません。
また、LCRメーターは小信号の正弦波に限っての測定のため、重畳できる信号レベルにも限界があります。仮に実稼働状態で測定しようとすると、過入力によって測定器が破損するおそれがあります。
パワーアナライザを使用した測定方法
パワーアナライザを用いることで実際の稼働条件で損失を正確に測定することができます。しかし、リアクトル損失の測定では、電圧と電流の位相差(電力位相角)が90°付近であり、力率が極めて低い条件での評価になります。そのため、パワーアナライザおよび電流センサーの選定では、スイッチング周波数を含む高周波領域での位相精度が最も重要な指標です。
昇圧チョッパ回路におけるリアクトルの波形と測定値
提案するソリューション
パワーアナライザ PW8001(U7005)と電流センサ CT6904Aの組み合わせをおすすめします。
本体および電流センサーそれぞれで広帯域かつフラットな周波数特性と位相特性を実現していることに加え、組合せ条件での確度も規定しています。

PW8001 + CT6904AをA社、B社ソリューションと比較したときの位相特性を図に示します。PW8001 + CT6904Aは広帯域に渡ってフラットな位相特性を維持している様子がわかります。
組み合わせ条件における位相特性比較
位相誤差がリアクトル損失に与える影響
損失誤差 [%] の計算式は次の式で表されます。
Perror:損失誤差、Φ:電力位相角、ΔΦ:位相誤差
上記のグラフを例にとり、皮相電力(VI)=1 kW Φ= 88° f = 200 kHz の正弦波におけるリアクトル損失を計算してみましょう。このとき、リアクトル損失の理論値は34.89 W(P = VIcosΦ)です。こちらと比較すると、A社、B社では位相誤差の影響が大きいことがわかります。
| 項目 | PW8001(U7005) CT6904A | A社 | B社 | |
|---|---|---|---|---|
| 位相誤差ΔΦ | [°] | −0.03 | −3.50 | +2.04 |
| 損失誤差 | [W] | −0.523 | −60.94 | +35.59 |
| [%] | −1.49 | −174.63 | +102.00 | |
| 表示値 | [W] | 34.376 | −26.046 | 70.497 |
実験例
2種類の電流センサーを用いて、リアクトル損失の実測比較を行いました。本実験ではCT6904Aの比較対象としてCT6872を用いています。
DUT結線拡大
ブロック図
測定条件
- 正弦波 電流:~2 A程度 周波数:100 kHz~500 kHzまで100 kHz刻みで測定
- データ更新レート:200 ms
- アベレージ:ON(移動平均8回)
- 同期ソース:各CHの電圧
- LPF:OFF
- 位相補正:ON(Auto補正)
- そのほかの設定はいずれも共通
測定結果
以下に、正弦波を100 kHz~500 kHzまで遷移した際の有効電力(リアクトル損失)と位相の関係をまとめたグラフを掲載します。
有効電力比較
位相比較
印加する電流の周波数を100 kHzから徐々に上げていくと、CT6872では400 kHz時点で電力位相角が90°を超え、電力がマイナスを示しました。一方、CT6904Aでは電力位相角が90°を超えることなく、安定して測定ができることを確認しました。これは高周波における位相特性の違いによるものです。
正弦波100 kHzのリアクトル損失 (CH1:CT6904A、CH2:CT6872)
正弦波400 kHzのリアクトル損失 (CH1:CT6904A、CH2:CT6872)
CT6872はCT6904Aに比べて振幅帯域に優れる一方、位相特性はCT6904Aのほうが優れています。このように、リアクトル損失の測定では、位相特性も含めた最適な組み合わせ条件で測定することが重要なポイントです。
CT6904AとCT6872の位相特性の比較
特にインターリーブPFCなどの実回路測定の場合、スイッチング周波数を含むさまざまな高周波成分が重畳されるため、位相特性を含む測定器の性能の違いによる損失値への影響が大きくなります。その結果、リアクトル損失を比較した際の差異がより顕著に表れます。
なお、測定対象の電流値によってはCT6904Aと同等の特性を持つ直結タイプのPW9100Aもご使用いただけます。
使用機器リスト
| PW8001 | ×1 | パワーアナライザ | |
| U7005 | ×2 | 入力ユニット | 15 MS/s、18 bit、~5 MHz |
| CT6904A | ×1 | 電流センサー(CH1) 500 A定格 | 振幅:DC~4 MHz 位相:DC~1 MHz |
| CT6872 | ×1 | 電流センサー(CH2) 50 A定格 | 振幅:DC~10 MHz 位相:DC~1 MHz |
DUT
| ファンクションジェネレーター | ×1 | NF回路ブロック |
| 増幅アンプ | ×1 | NF回路ブロック |
| リアクトル | ×1 | — |
まとめ
リアクトル損失を正しく測定して把握しておくことは、設計の最適化や効率向上、電源の高性能化において不可欠です。特にリアクトルはレベル依存性を有するため、パワーアナライザを使用した実稼働状態での測定が求められます。
また、このような測定では電力が高周波かつ低力率となるため、測定器の位相特性が結果の精度に大きく影響します。位相誤差を含めて正確な測定を実現するためには、パワーアナライザと電流センサーを適切に選定することが重要です。
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関連資料
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