太陽光発電システムの安全性を確保するための絶縁抵抗測定

はじめに

絶縁体の損傷は、電力損失や機器の発熱、さらには火災につながるおそれがあります。 ビルや電気設備などで使用される電気機器や部品、設備が経年劣化により絶縁性を失っていないことを確認するために、絶縁検査が必要です。 この検査は、感電や短絡などの危険が生じることを防止するのに役立ちます。 太陽光発電システムについても同様であり、設置後の絶縁検査と定期的な絶縁検査が必要です。

IEC62446-1規格では、太陽光発電システムの絶縁抵抗を測定する2つの方法が記載されています。

  • 1.PVストリングの正極と負極を短絡し、短絡点と対地間の絶縁抵抗を測定する方法
  • 2.正極と接地間、および負極と接地間の絶縁抵抗を、短絡せずに別々に測定する方法

短絡を伴う測定

太陽電池はフォトダイオードの一種であり、定電流源として扱われるため、正極と負極を短絡すること自体は問題になりません。正極と負極を短絡させると、一般的な絶縁計で絶縁抵抗を正確に測定することができます。一方、短絡するとアークが発生し、感電や火傷の危険性が高くなります。

これを回避するためには、充分な容量をもったリレーで短絡させる、または太陽光発電モジュールが発電していない夜間に測定する場合は容量の小さなリレーを使用することができます。夜間の測定時は、視界不良など考慮すべき他のリスクがあることに注意してください。

短絡を伴わない測定

この方法では、太陽電池の正極と負極を短絡しないため、リレーも不要で簡単に測定できます。

ただし、一般的な絶縁抵抗計を使用する場合、不正確な測定値を取得するリスクがあります。これは、電位を持つPVモジュールを搭載した対象物を測定することによって引き起こされます。一般的な絶縁抵抗計は、電位を持たない対象物を測定するように設計されています。発電中の太陽電池が測定に影響し、測定の誤差につながる場合があります。

誤差が生じる原因

図1は、太陽電池の負極-接地間に地絡が発生している状態で、正極-接地間の絶縁抵抗を測定する例を示しています。正極-接地間の絶縁抵抗を測定するには、正極と接地それぞれに絶縁抵抗計の測定端子を接続します。この場合、負極に地絡が発生しているため、太陽電池が発電した電流が地絡抵抗と絶縁抵抗計を経由して流れる閉回路が形成されます。太陽電池が発電した電流が絶縁抵抗計に流れることになり、測定に誤差が生じます。一般的な絶縁抵抗計が出力する試験電圧は、負極性となっています。この例では測定電流と太陽電池が発電した電流が同方向に流れるため測定電流が増加し、結果として絶縁抵抗値が実際の絶縁抵抗値よりも低い値で表示されます。

図1:負極が地絡した例

図2は負極-接地間の測定で、正極が地絡を起こしている例を表します。この場合は、太陽電池が発電した電流と測定電流がそれぞれ反対方向に打ち消し合うように流れることになり、測定電流が減少します。結果として、絶縁抵抗が実際の値よりも大きな値で表示されることになります。最悪の場合、地絡を起こしているにもかかわらず、絶縁抵抗が「無限大」と表示されてしまうことがあります。

図2:正極が地絡した例

これらの現象は、絶縁抵抗計を接続することで閉回路が形成され、その回路に発電電流が流れる場合に発生します。図3は、標準的な絶縁抵抗計で正確な測定ができる場合の例を示しています。いずれの例も閉回路は存在しません。そのため、太陽電池で発電した電流は測定器には流れず、地絡が発生しても測定に影響を与えません。もちろん、地絡が発生しなければ正確な測定が可能です。

  • 図3:太陽光発電で発電した電流を流す閉回路がない場合

より安全で正確な測定のために

太陽電池の絶縁抵抗を安全に測定するには、短絡を伴わない方法で測定することを推奨します。また、太陽電池からの電流が閉回路に流れた場合でも正確に測定できる絶縁計を使用することも重要です。

HIOKI IR4053は、通常の絶縁抵抗測定に加え、PV専用ファンクションも備えています。これは、太陽電池が発電した電流の影響を排除するように設計されています。そのため、太陽電池のストリングに地絡が発生している場合でも、正確な値を測定できます。IR4053には、太陽光発電システムを効率よく点検するための便利な機能がいくつか備わっています。

  • PV専用ファンクションでは、測定開始から4秒で測定値を表示します。
  • 開放電圧の測定機能と極性判定機能を持っており、太陽光システムの設置の際の極性試験にも役に立ちます。
  • PASS/FAILの判定を一目で確認できるコンパレータ機能搭載。

IEC62446-1では負極-接地間を先に測定しますが、IR4053の出力は負極性のため正極-接地間を先に測定します。

まとめ

太陽光発電システムの安全性を確保することは重要ですが、測定を行う人の安全を確保することも同様に重要です。そのため、PVモードを備えた絶縁抵抗計を使用することをお勧めします。

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