SiC/GaNダブルパルステスト

同軸シャント、ロゴスキーコイル、AC/DC電流プローブの比較

はじめに

WBG半導体評価では、電流波形の観測品質が重要になる

SiCやGaNに代表されるWBG半導体は、高速応答により電力変換器の高効率化・小型化に貢献します。一方で、電流変化が急峻になるため、ピーク電流、di/dt、リンギング、逆回復電流などを正しく捉えることが難しくなります。
ダブルパルステストでは、電圧波形と電流波形を同時に測定し、ターンオン/ターンオフ特性やスイッチング損失を評価します。そのため、電流波形の帯域不足、遅延、ノイズ、オフセット変動は、評価結果に直接影響します。

本記事では、AC/DC電流プローブ、同軸シャント、ロゴスキーコイルを比較し、WBG半導体のダブルパルステストにおける電流測定方法の選定ポイントを整理します。

GaNスイッチング特性評価ボード

ダブルパルステストで測定する電流波形

ターンオン、ターンオフ、逆回復で何を見るのか

ダブルパルステスト(DPT)では、パワーデバイスを短いパルスで駆動し、スイッチング時の過渡波形を観測します。第1パルスで負荷インダクタに電流を立ち上げ、第1パルス終了時にターンオフ特性を、第2パルス開始時にターンオン特性を評価します。主に確認する電流波形は、インダクタ電流、ターンオン/ターンオフ時の電流変化、ピーク電流、di/dt、リンギング、逆回復電流です。これらの電流波形は、Vds/Vceなどの電圧波形と組み合わせて、瞬時電力やEon、Eoffなどのスイッチング損失を求めるためにも使用されます。


  • ダブルパルステスト回路図
  • ダブルパルス試験の波形特性

そのため、電流波形の立ち上がりが鈍る、ピーク電流が正しく捉えられない、リンギングが減衰して見える、電圧波形との時間ずれがある、といった測定誤差は、スイッチング特性の評価に直接影響します。

  • スイッチング特性の測定結果
    黄色:電流波形 Id、青:電圧波形 Vds、水色:電力計算波形(電流波形 × 電圧波形)

電流測定方法の比較

ダブルパルステストで使用される代表的な電流測定方法には、AC/DC電流プローブ、同軸シャント、ロゴスキーコイルがあります。いずれも有効な手法ですが、測定原理や接続方法が異なるため、得意な用途と注意点も異なります。

AC/DC電流プローブ

  • 利点
    クランプ式で接続しやすい。回路改造を抑えられる。DC成分を含む電流波形を観測できる。
  • 注意点
    帯域、最大電流、周波数ディレーティング、プローブ遅延を確認する必要がある。
  • 用途
    DPTの条件出し、波形観測、設計評価、デバッグ、比較測定

電流プローブ CT6711


同軸シャント/ CVR

  • 利点
    大電流パルスを測定しやすい。柔軟に取り付けでき、回路への挿入影響が小さい。
  • 注意点
    DC成分を測定できない。積分回路が必要。低周波成分、ノイズ、取り付け位置の影響を受けやすい。
  • 用途
    大電流パルスの傾向確認、配線電流の概略観測

同軸シャント抵抗


ロゴスキーコイル

  • 利点
    高帯域で、遅延の少ない測定に有利。高速過渡電流の詳細観測に適している。
  • 注意点
    回路へ挿入が必要。寄生インダクタンス、発熱、絶縁、グランド条件、治具設計の影響を受ける。
  • 用途
    厳密なスイッチング損失評価、高帯域の基準測定

ロゴスキーコイル*1

実測比較

電流立ち上がり波形で見える測定方法の違い

本評価では、パルスジェネレータの出力信号を基準として、同一条件における電流立ち上がり波形を比較しました。比較対象は、同軸シャント、AC/DC電流プローブ、ロゴスキーコイルの3種類です。

測定方法帯域仕様
同軸シャント2 GHz
AC/DC電流プローブ120 MHz
ロゴスキーコイル30 MHz

  • Reference signal: 1 ns rise-time pulse

同軸シャントの波形は、基準信号に対する遅延が最も小さく、電流の立ち上がりを高速に捉えています。一方で、観測波形には大きなオーバーシュートが現れており、測定回路への挿入や接続条件、寄生成分の影響を考慮する必要があることがわかります。

AC/DC電流プローブの波形は、基準信号に対して遅れて立ち上がります。また、同軸シャントと比較すると、立ち上がりの傾きはわずかに緩やかになっています。これは、電流センサーの帯域上限による影響と考えられます。一方で、オーバーシュートは小さく、波形全体は安定しており、電流立ち上がりの挙動を実用的に把握できる結果となりました。

ロゴスキーコイルの波形では、電流信号が立ち上がる前からリンギングが始まり、立ち上がり中から立ち上がり後にかけても振動成分が見られました。また、立ち上がりの傾きも緩やかになっています。これは、ロゴスキーコイルの帯域上限、積分回路、取り付け条件の影響を受けている可能性があります。

今回の結果から、各測定方法の特性が電流波形に明確に現れることが確認できました。同軸シャントは高帯域で遅延が少ない一方、接続条件による波形変化に注意が必要です。ロゴスキーコイルは大電流測定に有効な手法ですが、高速立ち上がり波形の詳細観測では帯域やリンギングの影響を受けやすい結果となりました。

AC/DC電流プローブは、同軸シャントほどの高帯域ではないものの、回路改造を抑えながら、オーバーシュートやリンギングの少ない安定した波形を取得できました。DPTにおける条件出し、波形比較、設計評価、デバッグ用途では、実用性の高い電流測定方法といえます。

測定方法を選ぶ際の確認ポイント

帯域だけでなく、測定系全体で判断する

ダブルパルステストにおける電流測定方法は、単純に帯域仕様だけで選ぶものではありません。評価目的、測定電流、DC成分の有無、回路への影響、接続のしやすさ、安全性を含めて判断する必要があります。


選定項目確認すべき内容
評価目的Eon/Eoffの詳細解析か、波形確認・条件出し・デバッグか
周波数帯域電流立ち上がり、ピーク電流、リンギングを十分に捉えられるか
最大測定電流パルス電流やピーク電流が測定範囲内に収まるか
DC成分の測定可否インダクタ電流の立ち上がりや電流レベルを把握できるか
回路への影響測定器の挿入により寄生インダクタンスや波形変化が生じないか
遅延・デスキュー電圧波形との時間ずれの補正値がメーカから提供されているか
接続性・再現性同じ位置・条件で繰り返し測定しやすいか
安全性高電圧・大電流条件で定格、絶縁、取り扱いに問題がないか

特に、EonやEoffなどのスイッチング損失を求める場合は、電圧波形と電流波形の時間合わせが重要です。電流波形がわずかに遅れているだけでも、瞬時電力の計算結果に影響します。測定前に、使用する電圧プローブと電流測定系の遅延差を確認し、必要に応じてデスキューを行います。

AC/DC電流プローブを使用する場合は、測定前のゼロ調整、電流方向の確認、レンジ設定が基本になります。また、高周波・大電流成分を含む波形では、周波数ディレーティングを必ず確認します。カタログ上の最大電流だけでなく、測定する周波数成分を含めて、使用可能範囲内にあるかを判断する必要があります。

DPTは高電圧・大電流を扱う試験であり、測定中の回路には危険なエネルギーが蓄積されます。測定器の接続変更は必ず電源を遮断し、コンデンサの残留電荷を確認したうえで行います。安全カバー、インターロック、絶縁治具、保護具を使用し、測定者が充電部に接触しない構成で試験を行うことが重要です。

まとめ

測定目的に合わせて、電流測定方法を選ぶ

  • 電流プローブCT6711: 帯域120 MHz
  • 電流プローブCT6704: 帯域30 MHz

ダブルパルステストでは、電流波形の観測品質がスイッチング特性の評価に大きく影響します。ピーク電流、di/dt、リンギング、逆回復電流、Eon/Eoffなどを正しく評価するには、測定対象だけでなく、電流測定方法の特性も理解しておく必要があります。

同軸シャントは、高帯域で遅延の少ない測定に有効です。一方で、回路への挿入、接続部の寄生成分、発熱、絶縁、安全性を考慮する必要があります。ロゴスキーコイルは、大電流パルスの観測に有効な場合がありますが、DC成分を測定できず、高速立ち上がり波形ではリンギングや波形のなまりに注意が必要です。

AC/DC電流プローブは、同軸シャントほどの高帯域ではないものの、クランプ式で接続でき、DC成分を含む電流波形を観測できます。今回の実測比較でも、回路改造を抑えながら、ダブルパルステストに必要な電流立ち上がり波形を安定して取得できることを確認しました。

重要なのは、評価目的に応じて適切に使い分けることです。詳細な損失解析、波形確認、条件出し、設計デバッグでは、それぞれ求められる測定条件が異なります。帯域、電流定格、DC測定可否、回路への影響、デスキュー、安全性を含めて、測定系全体として判断することが重要です。

HIOKIは、オシロスコープと組み合わせて使用できるAC/DC電流プローブをラインアップしています。WBG半導体のダブルパルステスト、インバータ評価、DC/DCコンバータ評価など、高速電流波形の観測において、測定条件に応じた電流プローブ選定をサポートします。


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