バッテリーパック開発における多点温度測定
なぜ、バッテリーパックの温度評価はこれほど重要なのか
EVやHEVの普及に伴い、バッテリーパックには、より高いエネルギー密度や出力、そして高い安全性が同時に求められるようになってきました。その中で、温度管理はバッテリの性能と信頼性を左右する重要な要素となっています。
バッテリの温度は、性能、寿命、安全性のすべてに影響します。たとえば、 以下のような課題があります。
- 温度が低すぎると、出力や充電性能が十分に発揮できない
- 温度が高すぎると、劣化が進んだり、安全性のリスクが高まる
- パック内の温度ムラは、セルごとの劣化のばらつきにつながる
こうした問題に対応するため、バッテリーパックにはBMS(バッテリマネジメントシステム)が搭載され、温度情報をもとに充放電や冷却の制御が行われます。開発段階では、BMSの制御やアルゴリズム設計を検証するための「基準となる温度データ」を取得するとともに、温度監視ポイントの配置が適切であるかを確認するため、セル間の温度差やパック内の温度分布をより詳細に把握しておくことが重要になります。
だからこそ、バッテリーパックの評価では、限られた測定点だけを見るのではなく、多点で温度を捉え、温度分布とその変化を可視化することが重要になります。
バッテリーパックの温度評価手法
サーミスターと熱電対の役割
バッテリーパックの温度評価では、用途に応じてサーミスターと熱電対を併用するのが一般的です。
- サーミスター
バッテリーパックにあらかじめ組み込まれている温度センサーです。BMSの開発には時間を要するため、BMSが完成していない段階でも、実装済みのサーミスターを用いて熱挙動を評価することで、開発を並行して進めることができます。 - 熱電対
取り付けの自由度が高く、パック全体の温度分布やホットスポットの傾向を把握する用途に適しています。
このように、サーミスターは「BMS視点の温度確認」、熱電対は「パック全体の温度分布の把握」という役割で使い分けることで、バッテリーパックの温度状態をより包括的に評価することができます。
多点温度測定は、なぜ手間がかかるのか
セットアップと解析にかかる「見えないコスト」
バッテリーパックの温度測定は、一見すると単純な作業に見えます。しかし、評価現場のエンジニアが多くの時間を割いているのは、温度を測る工程そのものではなく、測る前の「準備」と、その後のデータ整理ややり直しです。
配線の引き回し、ノイズ対策、スキャナやロガーの設定、結線確認、断線チェック、そしてサーミスターと熱電対のデータを揃えるための後処理……。こうした作業が積み重なり、評価のスケジュールを静かに、しかし確実に圧迫していきます。
特に多点測定になると、測定点の増加とともに配線や設定の手間も増え、「測る前の準備」だけで相当な工数がかかるようになります。さらに、測定が終わった後も、データの整理や可視化に時間を取られ、「測った後の作業」も決して軽くありません。こうした作業の積み重ねが、バッテリーパック評価のスケジュールを圧迫する大きな要因となっています。
セットアップの手間を大幅に減らす、ワイヤレス温度測定という解決策
コンパクトでポータブルなデータロガー
HIOKIのワイヤレス メモリハイロガーLR8450-01と、ワイヤレスサーミスターモジュール LR8537、ワイヤレス電圧・温度ユニット LR8532を組み合わせたモジュール分散型の温度測定システムは、これまで多点温度測定の現場を悩ませてきたセットアップの課題を、仕組みそのものから解消するアプローチです。
配線作業を大幅に短縮

測定モジュールをバッテリーパックの近くに配置できるため、すべてのセンサ配線を測定器まで引き回す必要がありません。 これにより、配線長を大幅に短縮でき、配線コストの削減とノイズの影響低減を同時に実現できます。
配線作業中でも、LR8450の画面で各チャネルの温度値をリアルタイムに確認できます。これにより、配線ミスや断線にその場で気づきやすくなり、「測定してから間違いに気づく」といった手戻りを防ぐことができます。
多点測定になるほど、この効果は大きく、セットアップ作業そのものの負担を大きく軽減します。
サーミスターと熱電対を同一タイムラインで同期記録
LR8537でサーミスター 15ch、LR8532で熱電対 30chを、同一のLR8450に接続し、完全に同期したデータとして記録できます。 これにより、測定後にサーミスタと熱電対のデータを突き合わせて時刻を合わせるといった、面倒な後処理が不要になります。
LR8537は最大200 kΩまでのサーミスターに対応しており、メーカーや仕様の異なるサーミスターもそのまま扱うことができます。 これにより、測定器の制約に合わせてセンサを選び直すといった無駄な作業を減らし、既設のサーミスターを活かした評価が可能になります。
サーモグラフィと波形を「同期」して見るという発想
GENNECT Spaceによる温度解析の新しいアプローチ
GENNECT Spaceは、HIOKIの計測器で取得した測定データを、直感的に可視化・解析するためのデータ統合ソフトウェアです。ロガーの温度波形だけでなく、USBカメラやサーモグラフィ画像や他の測定データも含めて、ひとつのPC画面で扱うことができます。
GENNECT Spaceは、
サーモグラフィ × 波形同期
というシンプルなコンセプトで、温度データの見方そのものを変えます。
時間軸をスクロールするだけで、以下を同時に把握できるようになります。
- 「この瞬間に、パックのどの部分が発熱しているのか」
- 「そのとき、どの測定点の温度がどう変化しているのか」
「場所」と「時間」の関係を、直感的に理解できるようになることで、 測定結果の解析が、考える作業から「見て分かる」作業に変わります。

システム構成
本記事では、以下の構成でバッテリーパックの温度測定と解析を行います。
メモリハイロガー LR8450-01
LR8450はポータブルデータロガーです。複数の測定モジュールを備え、多点の測定データを完全に同期したデータとして記録できます。無線LANモデルのLR8450-01は計測モジュールとワイヤレスで接続可能
ワイヤレスサーミスターモジュール LR8537
LR8537は、最大15chのサーミスター入力に対応したモジュールです。最大200 kΩまでのサーミスターに対応しており、メーカーや仕様の異なるサーミスターも柔軟に扱うことができます。BMSで使用されるサーミスターと同じ条件での温度評価に適しています。
ワイヤレス電圧・温度ユニット LR8532
LR8532は、熱電対による温度測定に対応したモジュールで、最大30chの入力が可能です。バッテリーセルの電圧測定にも利用できます。
GENNECT Space
GENNECT Spaceは、測定器の設定、計測データの収集、データの解析までを完結するHIOKIデータ統合ソフトウェアです。
GENNECT Spaceで、解析の体験をしてみる
バッテリーパックの温度評価では、多点での温度測定と、その結果を活かしきる解析環境が、開発のスピードと確度を大きく左右します。
測る前の手間を減らし、測った後は直感的に「見て分かる」形で確認できることが、これからの温度評価の基本になっていくはずです。
GENNECT Spaceは、こうした解析を実現するためのソフトウェアとして、無償で公開されています。
実際に触れてその操作感を確かめてみてください。
