高速波形と多点温度の同時測定で明らかにする「モーターの熱設計」

はじめに

電動パワートレインの開発では、高効率と信頼性の両立が求められています。モーターやインバーターは小型・高出力化が進み、発熱密度が上昇する一方で、冷却系の消費電力を抑える必要があります。そのため、電気的な損失がどのように熱として現れるのかを正確に把握することが、熱設計の出発点となります。 

本記事では、高速波形と多点温度のデータ統合により、モーターやパワーデバイスの発熱メカニズムを明らかにする手法をご紹介いたします。

モーターの発熱と冷却設計のトレードオフ

モーターの小型化は、巻き線抵抗の増加によってジュール熱損失(I2R損)を生む、発熱密度を高めます。一方、高速回転化によって出力を維持する設計では、スイッチング損失や鉄損が増え、モーター内部の熱集中が進行します。
このようなモーター発熱を逃がすために冷却系を過剰にすると、ポンプやファンの消費電力が増え、結果的に車両全体の電力性能を損なうリスクがあります。

したがって、設計者は発熱源を正確に把握し、冷却を必要な範囲で設計することが求められます。そのためには、実機計測による熱分布の定量化と、シミュレーションとの整合性検証が欠かせません。

波形と温度を同時に測る意義

モーターやインバーターでは、電流が流れる瞬間ごとに損失が発生し、それが熱として蓄積されていきます。電圧・電流波形を観測することで損失の傾向は推定できますが、その損失がいつ・どこで・どの程度の温度上昇として現れるかまでは把握できません。 逆に、温度データだけでは、どの動作イベント(スイッチング・通電・負荷変動)に対応して発熱したのかを特定することはできません。 そこで、波形と温度を同一の時間軸で記録する同時計測が必要となります。

これにより、以下のような発熱源と熱拡散の時系列関係を定量的に明らかにできます。

  • 巻線のジュール熱損失がステーターや筐体に伝わる過程
  • エンドリングやヒートシンクが温度上昇に追随する速度

電気的ストレスが熱に変換されるまでの「時間的遅れ」を可視化できることが、同時計測の最大の価値です。この知見は、シミュレーションでは膨大な計算が必要な、過渡的な熱応答を補完し、熱設計の精度を飛躍的に高めます。

温度測定ポイントはどこが有効か

効果的な温度測定を実現するためには、次のポイントを押さえる必要があります。

  • 半導体素子や電力デバイスの筐体近傍
    スイッチング損失による発熱の影響を把握するための測定ポイント
  • モーター巻線、ステーター表面、筐体表面
    通電時のジュール損失がどの程度熱に変換されているかを確認
    放熱状態の確認
  • 冷却系(ヒートシンク、冷却水の入口/出口)
    熱対策設計が十分であるかを検証

これら複数の測定ポイントで同時記録を行うことで、どの部位で発熱や熱の滞留が生じているかを明確にすることができます。

構成例説明利点
メモリハイコーダー MR6000最大200 MS/sの高速サンプリング、16チャンネル瞬間波形の正確なキャプチャにより異常検出効率を向上
メモリハイロガー LR8450最大90チャンネルの温度測定、CAN統合多点ログを簡略化し、R&Dワークフローのデータ統合を改善
組み合わせ構成CANリンクによるデータ同期分析を効率化し、誤差を最小化して開発サイクルを加速

測定データを設計フィードバックに活用する

波形データと温度データを重ね合わせることで、次のような分析ができます。

  • スイッチング損失の発熱寄与率を可視化し、駆動条件の最適化に活用
  • 巻線電流のリップルと温度上昇の相関を定量化し、巻線構造や制御ロジックの改善指針を得る
  • 冷却機構の応答遅れを解析し、ヒートシンクや流路設計の再評価に反映

このように、同時計測データは、設計パラメータの最適化に直結する根拠として設計改善へフィードバックできます。


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図1 測定ポイントイメージ

 

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図2 波形記録イメージ

HIOKIの計測ソリューション

HIOKIのメモリハイコーダ MR6000とメモリハイロガーLR8450を組み合わせることで、電気と熱の同時計測とデータ統合が容易に実現できます。

  • MR6000:各チャネル絶縁入力により、異電位間の高速波形(電圧・電流)を安全に記録
  • LR8450:最大90チャネルの温度データを収集し、CAN経由でMR6000に送信しデータ統合

両機器を連携させることで、電気波形と温度を完全に同期したデータとして一元記録できます。別々の装置で測定したデータを後からマージする必要がなく、正確で再現性の高い熱解析ができます。

まとめ

波形と温度の同時計測は、発熱源と熱拡散の時系列を可視化し、電気的ストレスと熱応答の関係を定量化し、冷却設計や損失最適化の指針を導くための強力なアプローチです。HIOKIの計測ソリューションは、「電気と熱を同時に見る」というエンジニアの要望に応え、効率と信頼性を両立するモーター熱設計を支援します。

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