SiCインバーターの効率と損失評価

困難だったSiC(シリコンカーバイド)インバーターの効率・損失評価
より正確な測定をHIOKI製品で実現

今回のお客様

世界屈指の売上高を誇る家電メーカーのS社は、日本の各拠点で製品や部品を開発して、世界各国に各種家電を提供しています。近年は省エネ家電に注力していて、その高い省エネ性能で競合他社をリードしています。

導入前の経緯

S社は、SiCインバーターの効率と損失を正確に評価できる測定システムが必要としていました。

エアコン、冷蔵庫、洗濯機といった生活家電の省エネ性能強化が、家電業界全体のトレンドです。メーカー各社がより高性能な省エネ家電の開発に注力する中、S社でも省エネ性能の強化を推進。もともと自社開発していたインバーターやモーターの省エネ性能を高めるべく、尽力を続けてきました。そして、さらなる消費電力の低減や高性能製品の小型化をはかるため、製品に搭載するインバーターに次世代のスイッチングデバイスであるシリコンカーバイド(SiC)を使用する方針を打ち出したのです。SiCインバーターは、高周波でスイッチング動作をしても損失が少なく、製品の小型化に大きく貢献します。今後、SiCパワーデバイスの安定調達と低コスト化が進むにつれ、業界全体でSiCインバーターへの移行が加速していくことでしょう。

  • スイッチング波形

しかし、SiCインバーターは高周波スイッチングでも低損失であるため、従来よりも定量的な評価が難しいという問題があります。インバーターの効率評価で使われてきた従来のパワーアナライザと電流センサーでは、SiCインバーターの効率や損失を正確に測定することは困難です。電力変換効率を正確に測定できないと開発が進みません。S社でも、設計段階で「ある部品の変更でこのくらいの改善が見られるはず」と期待値を設定したのち、開発したSiCインバーターを測定したところ、期待値と実際の測定結果には大きな乖離が起きたそうです。このことから、これまでの評価も正確に測定できていたのか疑問を持つようになりました。そして、SiCインバーターを正確に評価できる新しい測定システムの購入検討を始めたのです。

お客様がHIOKIを選んだ主な理由

SiCインバーターの効率測定が可能な上、多様なスイッチング周波数でも正確に測定できる点を評価

  • インバーターの電力変換効率を測定する

SiCインバーターの電力変換効率は今や95%を優に超えていて、99%超えを目指して各社が研鑽しています。そのため、0.1%の向上でも大きな改善と捉えられる一方、測定結果が0.1%違ってしまうと、のちの開発に大きな影響が出てくるのです。損失評価についても同様で、残り数%を正確に測定できることが求められました。

S社はこれまで、他社のパワーアナライザと電流センサーを使って測定をしてきましたが、今回はSiCインバーターを正確に計測できることを必須条件として、測定システムを比較検討しました。また、将来的にスイッチング周波数をさらに高めたとしても、効率・損失を正確に測定できる性能であることも重視しました。

その結果、広い周波数帯域、高いノイズ耐性、高い測定確度を誇り、SiCインバーターを正確に計測できる製品群を有していること、そして電力計と電流センサーの両方を開発・製造・販売していることから、正確な測定システムを最適な構成で提供できることを評価し、HIOKIを本件のパートナーとして選出した。その後、製作したSiCインバーター試作機で実際に効率を測定したところ、パワーアナライザ PW6001とAC/DCカレントセンサ CT6904の組み合わせなら、さまざまなスイッチング周波数で、予想した効率・損失と乖離なく測定できたことから、S社は同製品の採用を決定したのです。

効率と損失の演算

また、従来のパワーアナライザと電流センサーでは、なぜ正確に測定できなかったのか、技術的な考察とともに両社でディスカッションを重ね、納得した上で導入を進めました。これはS社にとって重要なプロセスでした。

導入後の効果

SiCインバーターの正確な測定のほか、最適な動作条件への微調整にも活用

  • パワーアナライザ PW6001
  • AC/DCカレントセンサ CT6904

S社ではパワーアナライザPW6001とAC/DCカレントセンサCT6904の導入により、SiCインバーターの正確な測定が可能になり、電力変換効率・損失など性能の向上といった開発の成果が実機で評価できるようになりました。現システムと既存システムによる測定値を比較すると、電力変換効率で数%、損失値で4倍の差があり、それだけ正確な測定が可能になったといえます。加えて、最適な動作条件に向けた微調整を行う際にも活用でき、スムーズな調整作業が実施できるようになりました。

またS社では、SiCインバーターの測定以外の用途も検討されています。例えば、回路に設置する高周波リアクトルの電力損失測定です。リアクトルの周辺回路は高周波でスイッチングしているため正確な測定が難しいことから、高周波の測定に強みがあるパワーアナライザPW6001および、AC/DCカレントセンサCT6904を使用して損失測定することを計画しています。

リアクトル

将来的に大規模なSiC搭載製品を開発する際にも、HIOKIには2000 Aまで広帯域(DC~1 MHz)で測定でき、測定確度とノイズ耐性に優れた電流センサがラインアップされているため、電流センサーを換えるだけでさまざまな部分の電力変換効率や損失の測定に対応できます。このように設備投資を抑えつつ多様な用途に活用できる点も高い評価を受けています。

今後、高い省エネ性能で世界をリードする製品が、S社から続々と発売されることが期待されます。

ご採用製品

技術資料