総合高調波歪み率(THD)を知ることがなぜ重要なのか?
私たちの仕事や生活は、電力の存在なくしては成り立ちません。安全で安定した電力供給は、私たちに安心をもたらしてくれます。THD(Total harmonic distortion)を知ることは、安心して電力を使用するための一つの手段です。
高調波の原因
理想的な交流電源の波形は、ノイズを含まない純粋な50 Hzまたは60 Hzの正弦波です。しかし残念なことに、理想的な交流電源に出会うことは困難です。使用する負荷によって、交流電源の波形に歪みが生じることがあるためです。
歪みが生じる原因として、モーター用のインバーターや産業用のサイリスタといった電力変換装置があげられます。一般的にVFDと呼ばれる機器もその一つです。インバーター装置は、電圧や周波数を適切な値に変換することでモーターの回転数を制御します。これにより、機器の挙動を細かくコントロールできます。
これらは消費エネルギーの削減と出力制御の最適化に有効ですが、一方で高調波の発生源にもなります。
高調波とは
高調波は基本周波数の整数倍の周波数を指します。
例えば、基本周波数が50Hzの場合、2次は100Hz、3次は150Hz、4次は200Hzになります。
高調波は電圧波形に歪みを生じさせ、最悪の場合、機器の誤動作や故障などの事故につながる恐れがあります。安全上の理由から、高調波はできるだけ少ないことが望ましいです。
THD(総合高調波歪み率)とは
THDは、波形に含まれる全ての高調波成分と、基本波成分の比です。
具体的には、以下のような計算式で表現されます。
分子は2次以上の各次数の実効値の合算です。分母は基本波の実効値です。
THD は、電源波形に含まれる高調波を簡単に把握するための指標として使用できます。波形の歪みを単一の値として表します。そのため、THD は電源の高調波を評価するためのパラメータの 1 つとして使用できます。
THDに関する規格
THDは、波形に含まれる高調波全体の量を合算で示します。
高調波に関係する規格(IEC61000-3-2、EN50160、IEEE 519など)は、各次数の高調波含有率とTHDの一方または両方について限度値を定めています。
これらの限度値は電源の電圧、使用機器の定格電流などのシーンごとに分けられています。
通常、電圧の高調波は多くとも1%から10%未満です。電流の高調波は多いときでは100%を超えてしまうときもあります。
表1はEN50160による1000 V以下のシステムにおける電圧値に対するTHDといくつかの次数の限度値を表しています。
次数 | 限度値 |
---|---|
高調波の影響について
高調波は、電力を使用する場所だけでなく、その周囲の敷地にも影響を及ぼす可能性があります。特に工場やプラントなど、大きな電力設備を使用する施設ではその影響が顕著です。電力変換装置を設置する際は、機器が与える高調波の影響を確認しましょう。
高調波の影響が拡大する懸念がある場合は、リアクトルやパッシブフィルタといった高調波対策装置の設置を検討する必要があるかもしれません。
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