データセンターにおけるUPSの役割とコミッショニング試験
概要
データセンターには企業の基幹システムやクラウドサービス、医療、金融などの重要なIT業務が集約されているため、24時間365日止まらずに稼働し続ける必要があります。
安定したサービスを提供するために、火災や機器故障などのインシデント(事故)だけでなく、地震や水害、台風といった大規模災害に対する備えも想定しておく必要があります。
万が一稼働が停止すれば、顧客企業業務の中断やデータ損失、一般利用者サービスの停止などを招くおそれがあるため、とくに電源設備には事故がおきても稼働を維持し続ける高い信頼性が求められます。
この記事ではUPSの役割とコミッショニング試験の必要性、およびデータセンターの電力品質の試験方法について紹介します。

停電対策だけではない、UPSの役割
UPSは基本的に以下のような要素で構成されます。
- 整流器:交流電圧を整流、平滑化して直流電圧に変換する
- バッテリー:直流に変換された電力を充電/放電することによりUPS出力を安定させる
- インバーター:半導体の高速スイッチングにより直流電圧を交流電圧に変換する
- 切り替えスイッチ:インバーター出力とバイパス出力を高速で切り替える
データセンターのUPSは基本的に常時インバーター方式が用いられ、停電保護以外にもいくつかの役割があります。常時インバーター方式のUPSでは、入力された交流電力をまず直流に変換し、その後再び交流に変換するため、出力の電圧と周波数は入力側の影響を受けません。
図1. 基本的な常時インバーターUPSの構成:整流器、インバータ、バッテリー、スイッチ
停電に対する保護
停電保護はUPSの最も基本的な役割です。入力電源が失われた場合でも、UPSは重要なIT機器へ給電を継続します。データセンターの運営者にとって、たとえ数秒間の停電であっても、サーバーのシャットダウンやサービス中断は、絶対に許容できない事態です。そのため、UPSにはいかなる場合でも出力を維持する信頼性が強く求められます。
図2. 入力電圧が遮断されても出力電圧は影響を受けない
電圧、周波数の維持
入力側の電圧や周波数が変動しても、UPSの出力は安定していなければなりません(VI方式*1、VFI方式*2)。サーバーやネットワーク機器は電源品質の変動に敏感であり、わずかな電圧や周波数の変動でも誤動作を引き起こす可能性があるためです。UPSは外部電源の状態に関わらず一定の電圧と周波数を継続的に供給する性能が求められます。
図3. 入力電圧や周波数が変動しても出力は影響を受けない
- *1:VI方式:出力電圧が入力に対して独立しているUPS方式。入力電圧に変動があっても出力は影響を受けにくい。
- *2:VFI方式:出力電圧および周波数が入力に対して独立しているUPS方式。入力電圧および周波数に変動があっても出力は影響を受けにくい。
負荷の急激な変化に対する耐性
負荷が急に増加した場合、電源が出力に耐えられないと電圧降下が発生する可能性があります。しかし、データセンターでは電圧降下は許容されません。近年、AIトレーニングに必要な大規模な並列処理により消費電力が急増しており、過渡現象(負荷変動やスイッチングなどの際に生じる電圧や電流の短時間の変化)に対する安定性を維持するため、UPSにはこれまで以上に信頼性が求められています。また歪んだ電流波形などの非線形負荷があっても、電圧ひずみや異常変動を許容範囲に抑えなければなりません。
図4. 急激な負荷変動下でも出力電圧は影響を受けない
コミッショニングにおける現場受入試験
現場受入試験(SAT:Site Acceptance Test)は、設置完了後に実施される試験であり、実際の運用環境ででシステムが設計通り機能することを確認する試験です。 データセンター向けUPSの現地受入試験は、画一的な標準チェックリストに基づいて実施されるのではなく、メーカーと顧客の間で合意された試験計画に基づいて行われます。UPSの規格であるIEC62040-3 *3では、機器への不必要なストレス回避および費用対効果の観点から、SATでは工場試験で事前に確認されていない重要項目に絞って検証することが推奨されています。
- *3:日本では据付型UPSのみを対象にした独自規格JEC-2433が存在するが、どちらの規格に対応するかはオーナーとの協議によって決定される。
試験例1:停電時および復帰時の蓄積エネルギーモード応答試験
データセンターでは、商用電源が途絶した場合でも、サーバーやネットワーク機器への電力を供給しつづけることが求められます。停電および復帰試験では、UPS が通常モードで動作している状態から入力側の電源を遮断し、システムが蓄積エネルギーモード(バッテリー運転)に切り替わった際の出力電圧の変動を評価します。さらに、所定の時間経過後に入力電源を再投入し、システムが通常モードに戻る際のUPS出力の過渡応答も検証します。
試験では負荷装置を動作させ、UPSに電流が流れている状態で電源入力ラインを開放し、停電を模擬します。停電発生後、UPSが蓄積エネルギーモードで動作し、過渡現象が発生している間も所定の範囲内で適正な出力電圧および周波数を維持できるかを検証します。
図5. スイッチを開放し、交流電源の停電を模擬する
試験例2:ステップ負荷試験(負荷急変時の出力電圧変動確認)
データセンターでは、サーバーの起動や停止、AIトレーニングによる負荷変動などの要因により消費電力が瞬間的に大きく変動します。ステップ負荷試験は、このような負荷変動においてもUPSが安定した出力を維持できるかを確認するものです。この試験は、UPSを蓄積エネルギーモード(バッテリーモード)にして実施されます。
無負荷から100%負荷への移行、あるいは100%負荷から20%負荷への移行、のような急激な負荷変動を再現し、過渡現象の際に出力電圧に異常がないことを確認します。規格の標準限度値グラフ上に偏差と継続時間をプロットし、規定範囲内かどうかを判定します。実際の測定現場ではメーカーと顧客の間で合意された複数のテストケースが、あらかじめ決めたスケジュールによって実施されます。
図6. 測定偏差と持続時間のプロットにより異常を判断する
試験例3:通常モードとバイパスモードの切り替え試験
UPSには電力供給の主回路を迂回するバイパス回路があります。万が一UPSの機器自体にトラブルがおきても、電力はバイパス経路から供給されるため、サーバーや通信機器は稼働し続けることができます。この状態はバイパスモードと呼ばれ、UPSの異常状態や管理者からの指令により移行する一時的な動作モードとして規定されています。
切り替えの瞬間に出力電圧、周波数、位相などの電源品質に異常があると、サーバーの安定運用に支障をきたします。この試験では、UPSが実際の配線および負荷条件下における過渡現象を観測します。UPSが適切にバイパスモードに移行し、その後通常モードへ問題なく復帰できることを確認します。
図7. 切り替え中の電源供給を維持するためのUPSバイパス構成
現場受入試験における電源品質アナライザの役割
図8. 三相電源を測定するPQ3198
IEC 61000-4-30 クラスA準拠
IEC 61000-4-30は、電圧、周波数、電圧変動、高調波などの電力品質パラメータに関する測定アルゴリズムおよび精度要件を厳密に規定しています。本規格において、クラスAは最高グレードの測定器として定義されています。クラスAは測定結果に対する高い再現性を備え、異なるメーカーやモデル間の比較検証を可能にします。規格への適合性の評価、契約要件の検証、および問題やトラブルが発生した際の証拠として活用できます。
電源品質アナライザPQ3198は IEC 61000-4-30 Class A に対応し、第三者試験機関による認証も取得しています。標準化された演算方法によって再現性のある結果を残せるため、試験結果の明確な説明と信頼性の高い報告を可能にします。
三相交流の時系列データとイベントデータを同時計測
UPSの試験では、実効値の時系列による長期トレンドと、過渡的な高速波形の両方を評価する必要があります。PQ3198は、半サイクルごとに演算した実効値をもとに記録される最大値と最小値のトレンドデータに加え、過渡現象発生時のイベント波形を同時に記録できます。 三相の長時間変動を追いながら、異常が発生した際は同時に高速で波形を記録できるため、一度の計測で多くの情報を同時に記録できます。
図9. 解析ソフトPQ ONEにより、実効値トレンド(上)とイベント波形(下)を同時に表示
一次側および二次側の同時測定
UPSの切り替え性能を見る際には、複数ポイントの同時測定が必要になるケースがあります。PQ3198は全部で4つの電圧/電流測定チャネルを備えており、各チャンネルで電圧と電流を同時に測定できます。チャンネル1~チャンネル3はグループ化されており、 チャネル4は独立しています。入力側と出力側を同時測定したり、異なる系統でトリガをかけたりできるため、柔軟な測定シーンに対応できます。
図10. 2つの異なる系統を同時に測定
多彩なイベントトリガと高調波データの同時記録
UPS試験で確認したいのは、停電や電圧低下だけではありません。PQ3198は、高調波の時系列トレンドに加えて、多彩なイベント(ディップ、スウェル、停電、突入電流、トランジェント電圧、高次高調波、不平衡など)を記録できます。切り替え時の過渡応答だけでなく、波形ひずみやノイズも確認できるため、電源品質トラブルの原因を特定する診断にも役立ちます。
図11. PQ3198で記録されたイベント波形。負荷が急増しても電圧は安定している
PQ3198 をコミッショニングの現場受入試験に導入することで、客観的かつ再現性のある測定データを取得でき、実際の稼働環境下におけるUPSの性能検証が可能です。
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