絶縁故障の「見える化」によるバッテリー耐電圧試験の効率化

はじめに

多くの生産現場では、耐電圧試験(絶縁耐力試験)によって製品が高電圧に安全に耐えられるか確認し、感電などのリスクを未然に防いでいます。しかし、試験が不合格(NG)になった場合、オペレーターは「突然の絶縁破壊なのか」「徐々に漏れ電流が増えたのか」といった故障の実態を、なかなか特定できないのが実情です。

従来の耐電圧試験器は、設定した電流閾値を超えたかどうかの“合否”しかわからず、詳細な波形解析にはオシロスコープや高電圧プローブ、電流プローブなどの追加機器が必要でした。こうした構成は機器コストや段取り時間を押し上げるだけでなく、一時的な異常で「再試験すると合格してしまう」場合、結論が出せないリスクも高めてしまいます。

DC耐電圧絶縁抵抗試験器ST5680Aは、本体に波形表示機能を搭載することで、これらの課題を解消します。試験停止直前の電圧・電流波形を、追加機器なしでその場で取得・確認できるため、生産ラインや品質保証プロセスでの故障解析をより精密かつ迅速に行えます。その結果、設計・製造部門へのフィードバックが早まり、トータルの試験コスト削減にもつながります。

背景

電気部品、バッテリー、モビリティ関連製品などの生産ラインでは、出荷前に絶縁の健全性を確認する目的で、通常耐電圧試験が実施されています。製造ばらつきなどにより、時折NG結果が発生しますが、その際は再試験と原因調査を行い、再発防止や顧客クレームへの説明に用いるエビデンスを確保する必要があります。
しかし、従来の試験器は「印加中の電流が閾値以下かどうか」しか見ておらず、

  • 急激な絶縁破壊(電流スパイク)なのか
  • じわじわ増加する漏れ電流なのか

といった代表的な2つの故障モードの違いまでは判別できませんでした。 さらに、

  • 実際には致命的な故障が起きていないにも関わらず、閾値近傍の電流により形式的に不良判定となっているのか

といった「試験条件に起因する誤判定」も区別できません。 この「NGの中身が見えない」ことが、原因特定を長引かせ、対策の精度や説明根拠を曖昧にしてしまう要因となっています。

2つの故障モードを判別することの意義

NGが出たときに、「急峻な絶縁破壊」と「徐々に増加する漏れ電流」を判別できるかどうかは、その後に取るべきアクションを大きく左右します。

例えば、急峻な絶縁破壊が確認できる場合は、使用している絶縁材料の局所的な劣化や、製造工程での異物混入・加工傷などによる耐圧不足が主な原因として考えられます。この場合は、材料選定や構造設計の見直し、異物管理や特定ロット・工程の検証といった、設計・生産プロセス側へのフィードバックが有効です。

一方、漏れ電流が時間とともにじわじわ増加している場合は、材料の経時劣化に加えて、温度・湿度など環境条件の変動が影響しているおそれが高くなります。その場合は、部品および完成品の保管・エージング条件、試験雰囲気(温湿度)の管理といった、運用条件や環境面の見直しが重要な対策となります。

さらに、閾値近傍の電流が定常的に流れているだけでNGとなるケースでは、測定対象そのものの問題だけでなく、設定している閾値や印加条件が適切でないおそれも無視できません。波形を確認しながら、許容漏れ電流値や印加時間、立ち上げプロファイルなどを含めた試験条件の妥当性を再評価することで、過剰な不良判定を抑制できます。

このように、同じNG判定であっても、

  • 急激な絶縁破壊か
  • 徐々に増加する漏れ電流か
  • 閾値設定や試験条件に起因するものか

を見分けられるかどうかで、原因特定の精度や対策の方向性は大きく変わります。 絶縁故障の振る舞いを波形として“見える化”し、NGの中身を客観的に説明できることは、

  • 生産ラインでの迅速な切り分け
  • 上流工程への的確なフィードバック
  • 出荷後のクレーム対応におけるエビデンス提示

といった場面において、品質保証活動の実効性を高めるうえで大きな意義があります。

現場が抱える課題

  • 波形が見えないため、絶縁故障の性質を確信をもって判断できない
  • NGのたびに追加測定機器を立ち上げるのはコストも手間も大きい
  • オシロスコープや専用プローブを用意しても、再試験時には合格になってしまうことが多く、時間のロスにつながる
  • 上流工程へのフィードバックも曖昧になりやすい
  • 出荷後のクレーム対応時に、波形記録がないため元の検査の妥当性を示しにくい

このように、「そのとき何が起きていたのか」を説明できる客観データが不足していることが、現場の大きな悩みとなっています。

ソリューション:波形が「その場で見える」耐電圧試験

ST5680Aの波形表示機能は、試験停止直前のデータを最大260,000ポイント(約0.5秒分、2 μsサンプリング)まで記録できます。これにより、故障発生時の電圧・電流挙動を正確に捉え、破壊現象なのか、漏れ電流の増加なのかを、その場で明確に区別できます。

  • 追加のオシロスコープ、高電圧プローブ、電流プローブは不要
  • オペレーターはST5680A本体だけで波形解析まで実施可能

DC耐電圧絶縁抵抗試験器 ST5680A

その結果、

  • 故障原因の切り分けがスピーディーになる
  • 無駄な再試験の回数を減らすことができる
  • 顧客クレーム対応でも、判定値だけでなく実際の波形を客観的証拠として提示できる

といったメリットが得られます。

実測例

10 MΩの模擬負荷に対し、0.5 mAの閾値設定で1,000 Vの直流耐電圧試験を実施しました。 ここに並列で1 MΩの抵抗を故意に接続し、絶縁破壊を模擬しています。

接続前:電流は約 0.1 mA
接続後:電流は 1 mA まで上昇し、閾値を超えたため UPPER FAIL 判定

取得した波形では、急激な電流増加の様子がはっきりと確認できます。

図1 絶縁破壊をシミュレートしたトレンドデータ


図1のトレンドを拡大することで、電流が立ち上がる瞬間の変化をより明瞭に強調できます。
これらの実測例から、ST5680Aによって従来の試験器では「数値のNG」としか見えなかった挙動を、動きとして可視化できることが分かります。 その結果、バッテリーや各種部品の量産ライン、生産設備全体で、より効率的な品質保証活動を行うための強力なツールとなります。

図2 拡大図により、電流の急激な変化がより明確に示されている

HIOKIソリューション構成

ST5680Aは、波形記録・表示機能を内蔵したDC耐電圧絶縁抵抗試験器です。 単体で、以下をカバーし、生産・品質保証部門の作業効率向上を支援します。

  • 各種直流耐電圧・絶縁抵抗試験
  • CE, UKCA, CSAなどの国際安全規格への対応
  • 最大260,000ポイントの高解像度波形取得
  • 本体画面上での簡易解析

とくに、バッテリーやモビリティ分野など、高電圧の安全確認が重要な用途において、故障原因をすばやく把握できることは、以下の両面に直結します。

  • コスト削減
  • 市場での製品信頼性向上

まとめ

耐電圧試験プロセスに波形測定を直接組み込むことで、ST5680Aは以下を同時に実現します。

  • 追加機器不要のシンプルな測定構成
  • 故障解析時間の短縮
  • 社内改善および顧客説明に使える具体的データの提供

これにより、生産効率の向上、再試験によるロスの削減、検査結果に対する社内外の信頼性向上につながり、最終的には、より安全で高品質な電気製品の提供を後押しします。

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