LIB電極シートの合材層抵抗と界面抵抗を数値化
開発時間の短縮と量産品の品質管理に貢献
軽量かつ大容量を実現できるリチウムイオン電池(LIB)は、スマートフォンやコードレス機器のバッテリーとして普及し、世界中で数多く使用されてきました。近年、電気自動車(EV)のバッテリーとしてもLIBは注目され、今後想定されるEVの普及に伴い、更なる大容量化と軽量化のための改良、開発が加速しています。
電極抵抗測定システム RM2610は、LIB正極・負極シートの抵抗を、合材層抵抗、集電体と合材層の接触抵抗(界面抵抗)に分離し数値化する世界初の計測・解析システムです。
- 電極シート模式図
1.合材層, 2.界面, 3.集電体 - 電極抵抗測定システム RM2610
上流工程で詳細な抵抗特性を知りたい電池メーカー、EVメーカー、材料メーカー
課題1:LIB開発に時間がかかる。
LIBの性能向上のために、内部抵抗を低くすることは重要なことです。電池の主要材料となる電極シートの抵抗特性を詳細に把握し、材料、製造方法などの影響を検討することも必要です。電極シートの状態で、抵抗特性を知ることは、材料の違い、電極シートの製造プロセスによる変化を知ることです。しかし、電極シートの状態で詳細な抵抗特性を評価する手段はありませんでした。
セルでの特性評価が通例ですが、材料違い、プロセス違いの多種のセルを作り、評価するには時間がかかります。電極シートの状態であらかた選別し、選別された電極シートでのセルを評価することで開発時間は短縮されます。
課題2:量産セルの品質が安定しない
量産セルの生産で品質を安定させなければなりません。最終的な品質を安定させるためには、上流工程での品質管理が重要です。電極シートの状態で品質を管理することは、生産効率の向上に寄与することになります。
課題3:従来の方法では詳細に知ることができない
電極シートの状態で抵抗特性を測定する方法は、4探針法による測定や、貫通抵抗測定があります。しかし、それらの方法で測定できるのは、電極シート全体としての抵抗特性です。合材層の抵抗と界面抵抗を知ることはできません。合材層の抵抗と界面抵抗を分離して数値化することが求められます。
課題4:自社材料のメリットを提供したい
スラリーの材料を製造するメーカーは、電池メーカーに、自社の材料がセル特性におよぼす影響を具体的に伝えたいと考えています。電極シートでの評価データは、自社材料の影響をセルでの評価データよりも、リアルに提供することができます。
電極シートの合材層抵抗と界面抵抗が見えるようになることの効果
RM2610は、いままで見えなかった電極シートの合材層抵抗と、界面抵抗を分離して数値化できる計測・解析システムです。電極シートの表面に、テストフィクスチャ(複数のプローブ)を当て電位を計測し、HIOKI独自の解析手法を用いることにより、合材層抵抗と界面抵抗それぞれを数値化します。この数値を元に、材料、組成、製造条件の違いによる電極シートの特性変化を掴むことが可能になります。電極シート作製工程の品質を保証することで、LIBの進化・改善のための開発時間の短縮や生産時の歩留り向上が見込まれます。
知ることにより開発速度を向上:電池メーカー、材料メーカー
導電助剤量を変化させながら、合材層抵抗と界面抵抗の変化を知ることにより、界面抵抗を下げる適切な導電助剤量を確認することができました。カーボンコートの有無による界面抵抗の変化も確認可能になりました。これにより、電池メーカーは開発速度が向上しました。材料メーカーは自社材料のメリットを電池メーカーへ提示することができるようになりました。
プレス圧の適正値を決める判断材料になった:電池メーカー
プレス圧を変えて電極密度を変化させたものを数値化することで、電極密度による界面抵抗への影響が分かりました。プレス圧が高く電極密度が大きくなるほど合材層の体積抵抗率も界面抵抗も小さくなりましたが、界面抵抗はある点で急激に下がり、下りきったあとほぼ一定の値になることを知ることができ、プレス圧の適正値を決める判断材料となりました。
電極抵抗測定システムの概要
RM2610は、電極抵抗計「RM2611」、電極抵抗計算ソフトウェア「RM2612」、プレスユニット「RM9003」、テストフィクスチャ「RM9004」、接続ケーブル「RM9005」、メンテナンスツール「9006」で構成されています。演算では「フィッティング」の手法を用いて、合材層抵抗と界面抵抗とを分離して数値化しています。
まず電極シートの表面に複数のプローブで構成されたテストフィクスチャ「RM9004」を接触させ、特定の2 本のプローブの間に電流を印加します。
- 1: 定電流源、2: 合材層、3: 界面、4: 集電体
印加された電流は電極シート内を3次元的に分布し、その電流分布によって電極シートの表面に電位分布が生じます。電圧測定プローブで、その表面の電位分布を計測します。ここで得られた電位が「実測電位」です。
HIOKIは表面に発生する電位を計算で求める電極シートモデルを考えました。このモデルで得られる電位が「計算電位」です。
- 1: 合材抵抗、2: 合材層、3: 界面抵抗、4: 集電体抵抗、5: 集電体厚
変数としての合材層抵抗と界面抵抗を変化させながら計算電位を繰り返し計算します。繰り返し計算の過程で、実測電位と計算電位が最も近づいたときの数値を、合材層抵抗と界面抵抗として出力します。
- 1.計算電位、2.実測電位
実測電位と計算電位の分布が一致するまで計算が繰り返されます。
LIBの進化に対応するHIOKIのソリューション
LIBの進化は今後も止まりません。より高い性能を求めて、電池材料、添加物、組成、構成比、プロセス条件は変化し続けます。
HIOKIは、LIB製造の上流工程でのソリューションとして、電極シートの合材層抵抗と界面抵抗を分離し数値化するシステムをRM2610で実現しました。更に上流工程の、電極スラリーの新しい解析方法を提案しています。HIOKI独自の解析技術により、LIB電極スラリーのインピーダンス測定値を解析し、導電性材料の分散性、導電ネットワークの発達度合いを示します。
LIBは、EVやIoTの普及に伴い、今後ますます需要が増え、開発サイクルが短くなり、安全性やコストへの要求も高くなります。HIOKIでは、LIBの研究開発、製造工程において、お客様の需要に応えられる機能を備えた測定器を幅広く揃えています。
デモ機も用意していますので、機能を試してみたいお客様はぜひお問い合わせください。サンプル品をお預かりしての測定テストも対応できます。解決したい測定の課題や、気になる測定器などありましたら、お気軽にご相談ください。