製品・技術 2025.12.10

精密な電気計測でバスバーの溶接品質を評価 抵抗計RM3546を発売

  • 抵抗計 RM3546

HIOKI(日置電機株式会社:長野県上田市、代表取締役社長:岡澤尊宏)は、2025年12月10日、抵抗計RM3546を発売します。RM3546は、主に EV(電気自動車)やESS(エネルギー貯蔵システム)に使用されるバッテリーの生産ライン向けに開発した製品です。RM3546は分解能1 nΩ、A-OVC機能*1、DC 60 VまでのACP機能*2、A-TC機能*3といった機能を搭載しています。これらの機能を用いた精密な電気計測により、バッテリーパックのバスバー溶接部の品質を安全かつ効率的に評価できます。また、RM3546は、生産ラインでの利用だけでなく、研究開発における高度な仕様要求にも対応し、競争力のあるバッテリー生産に貢献します。

  • *1:Advanced-Offset Voltage Compensation
  • *2:Active Circuit Protection
  • *3:Advanced-Temperature Correction

開発の背景

EVおよびESS用バッテリーの世界的な需要急増を背景に、バッテリーメーカー各社は従来よりも厳しい品質要件を満たす高容量バッテリーパックの大量生産を求められています。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界のバッテリー需要は2024年に1,000 GWh(1 TWh)を超えました。この勢いは2025年も加速し続けており、総需要は1.2 TWhを超えると予測されています。中長期的な視点では、EV用バッテリー需要のみでも2030年までに2.5 TWhへ拡大すると示されています*4。同時に、電力網を支えるESSも急速に普及しています。COP28で掲げられた「2030年までに再生可能エネルギーの発電容量を3倍にする」という目標を達成するためには、世界のエネルギー貯蔵容量が2030年までに1,500 GWh(1.5 TWh)に達する必要があるとIEAは試算しており、バッテリーがこの容量の90%以上を占めると予測しています*5。 さらに、再生可能エネルギーの利用拡大には長時間に渡る貯蔵が不可欠です。BloombergNEFは2035年にESSの年間導入量がおよそ250 GW/1000 GWhに達し、世界の累積導入量が2.0 TW / 7.3 TWhを超えると予測しています。これは2024年比較で12倍の累積導入量となります*6
バッテリーパックには長期にわたる高い信頼性が求められており、バスバーの溶接抵抗は安全性、性能、耐久性を左右する重要な指標となっています。この抵抗がわずかに高いだけで、局所的な発熱やエネルギー損失、そしてバッテリーの劣化といったリスクにつながります。このため生産ラインでは、nΩレベルで溶接品質を確実に測定でき、故障のリスクが小さく、ダウンタイムを最小限に抑えることができる測定器が必要とされています。RM3546は、これらの要望に応えるために開発されました。

主な特徴

1. 研究開発から量産検査まで、再現性の高いnΩレベルの抵抗測定

バスバー溶接の品質管理には、nΩレベルの高精度な抵抗測定が不可欠です。しかし、実際には、わずかな温度変化によって熱起電力が生じ、それが測定値のノイズや差として現れるため、これまで正確な抵抗評価は困難でした。RM3546は、以下の機能を搭載することで、この熱起電力の問題を解決し、安定かつ高精度な測定を実現します。

・分解能1 nΩ(1000 μΩレンジ)
バッテリーパックの研究開発、試作評価、生産ラインにおける検査といった各段階において、微細な抵抗の違いを捉えます。
・A-OVC機能
これまでのノイズキャンセリング技術をさらに進化させました。温度管理されたラボから温度変化の激しい生産現場に至るまで、幅広い環境で熱起電力が抵抗値に与える影響を大幅に低減します。

→R&D段階から量産段階まで、信頼性と再現性の高いnΩレベルの測定が可能です。

2. 測定器を守り生産効率を保つ、新開発のACP機能

生産ラインにおける測定器の故障の主な原因は、活電状態のバッテリーセルやモジュールに対するプローブの誤接触です。RM3546は、最大DC 60 Vの印加電圧に耐えるACP機能を内蔵し、不測の事態から測定器を守ります。

・誤接触や誤配線による損傷から機器を保護
・予定外の故障によるダウンタイムを回避し修理コストを削減

→測定器を守り、生産ラインの長期的な信頼性の向上に貢献します。
 

3. 検査ラインの柔軟な設計と安定稼働を実現

バッテリーの生産規模を拡大する際、ケーブルの延長やプローブの摩耗、スキャナリレーの追加などにより、抵抗測定経路の抵抗値が増加し、検査システムの設計・安定稼働が困難になることが課題でした。RM3546は、以下の特長により、これらの課題を解決し、設計の自由度向上と長期的な安定稼働に貢献します。

・経路抵抗の許容抵抗を最大9 Ωまで拡大(500mAモード時)
従来モデル(3.5 Ω)の2.5倍以上となったことで柔軟なライン設計が可能になります。
・内蔵マルチプレクサユニットおよび外付けマルチプレクサシステムに対応
高速、多チャネルのインライン検査システムを簡単に構築できます。
・推奨プローブキット L9773シリーズ
効果的なプローブ選択とジグ設計をサポートします。

→高速多チャネル検査システムの設計自由度が向上し、長期的な安定稼働につながります。

4. 新提案のA-TC機能で溶接後も速やかに評価

バスバー溶接部の抵抗測定にあたり、溶接の直後は温度変化に伴う熱起電力の変化が抵抗値に影響を与えてしまうことから、冷却時間をおいて測定する必要がありました。そのため、R&Dの評価現場でも生産現場でも、タクトタイムの延長につながっていました。RM3546に搭載したA-TC機能は、測定対象の温度と抵抗値を同時に計測し、専用PCアプリを通じて基準温度での抵抗値に補正した値を表示できます。

・溶接後、数秒での正確な抵抗測定を実現
・高温溶接条件下でも信頼性の高い評価が可能
・試験およびインライン検査における待機時間を短縮

→溶接品質をすぐにフィードバックでき、開発サイクル短縮と生産の効率化を実現します。

主な用途

EV/ESS用バッテリーの研究開発
次世代電池、電極材料、溶接プロセスの精密評価
新素材や設計変更における微細な抵抗変化の検出
バッテリーパックおよびモジュールの生産
バスバー溶接抵抗のインライン全数検査
セル間接続抵抗とヒューズ抵抗の測定
その他高精度直流抵抗測定
EV充電コネクタとインフラ部品
データセンターおよび産業システム用配電部品

製品ラインアップと価格

抵抗計 RM3546        
 420,000円(税込み 462,000円)
マルチプレクサユニット
 Z3003    94,600円(税込み 104,060円)
プローブキット L9773
 19,000円(税込み 20,900円)

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本件に関するお問い合わせ先

日置電機株式会社 R&D本部 計測ラボラトリー 電気化学計測ブロック

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