電流測定によるアーク溶接の品質診断とトレーサビリティを確保
アーク溶接の品質を客観的に評価するためには、溶接中の電流波形を確認するのが一つのポイントです。溶接電流が途切れていたり、定格電流に達していなかったりすると溶接がうまく行っていないおそれがあることから、良品時の溶接電流波形との違いから、溶接工程が適切行われているかを確認できます。また、電流波形から溶接の品質を客観的に判断できるだけでなく、これらの記録を残すことでトレーサビリティによる品質信頼性の向上に繋がります。
このアプリケーションノートでは、溶接時の電流測定の手順と測定に適した計測器をご紹介します。
溶接電流の波形例
右の波形例は、良品と不良品の溶接電流の波形を示しています。溶接電流の瞬断は不良につながりますが、電流波形を監視しなければ検出できません。
予期せぬタイミングで発生する高速現象の監視こそ、高速サンプリングと大容量メモリを備えたメモリハイコーダが最適です。短絡やアーク放電などによる溶接電流の瞬断現象を捉えることで、溶接品質と信頼性の向上に貢献します。
メモリハイコーダによる溶接中の不具合解決
溶接ロボットラインでの工程品質管理には、メモリハイコーダの波形判定機能が便利です。右図のように、あらかじめ設定したエリアから外れた場合を異常と判定し、ラインを自動停止させたり、不良品を検出したと判断することで、不良品が次工程に流出することを抑制できます。
さらに、データを自動的に保存し、後から解析することで、溶接工程のトレーサビリティを確保し、トラブルの再発防止にも役立ちます。
アーク溶接機の電流測定と記録を簡単かつ安全に行う手順
1. メモリハイコーダ本体に装着した電流ユニット端子に、電流センサーを接続。
2. 電流センサーを溶接部材と溶接機をつなぐアース側のケーブルにクランプします。
溶接時には数十Aから数千Aもの大電流がケーブルを流れます。シャント抵抗による直接入力は危険が伴いますが、クランプ電流センサーなら、ケーブルの被覆の上から挟むだけで安全かつスピーディに測定ができます。
3. メモリハイコーダの入力レンジ、測定スピード、記録の長さなど必要な項目を設定し、準備ができたら溶接を行います。トリガ機能で記録開始条件を設定すれば、溶接開始のタイミングで必要なデータだけを効率よく記録できます。
4. 波形判定機能を使用する場合は、既知の良品波形を記録し、その波形に基づいて良品のエリアを設定します。
溶接電流測定に必要な機器のご紹介
溶接電流の波形測定には、メモリハイコーダとクランプタイプの電流センサーの組み合わせが最適です。

・溶接電流は、短絡やアーク放電といった瞬時に変化する電流の連続であり、スパッターの発生を極力抑えるためにも瞬時的な電流制御が必要となります。メモリハイコーダは、このような高速現象であっても確実に測定できます。
・メモリハイコーダで取得したデータは、内部SSD のほかUSB メモリやメモリカードに保存したり、LAN でサーバーに転送することができます。
・電流センサーも豊富に用意されており、応答性が高く、小電流から大電流まで幅広い範囲の測定をカバーします。特にシャント抵抗と比較し、立ち上がりの鈍りやノイズにも強く、より安全に測定できます。
・メモリハイコーダには、様々なトリガ機能が搭載されており、電流出力が定格に満たない、タイミングのズレ、ノイズの発生など、異常な電流波形を見逃さず記録できます。
トリガが作動した後から記録を始めると、トリガ前の重要な現象を見逃してしまうことがあります。そこで役立つのが、トリガ前の現象も捉えられるメモリハイコーダです。
「プリトリガ機能」によりトリガ前後の記録ができ、分析や評価を多角的に行うことができます。
使用機器の組合せ例
記録計:メモリハイコーダ MR8848
入力ユニット:3CH電流ユニット U8977 × 1
電流センサ:AC/DC電流プローブ CT6845A × 1
* 組合せ例であり、測定対象により、入力ユニット、電流センサーの推奨品は異なります。
測定用途、測定対象の定格により適切な入力ユニット、電流センサーをセレクトする必要があります。
* 注意事項
溶接機の出力電圧は直接測定しないでください。溶接機の種類によっては高周波や高電圧を印可するタイプ(TIG 溶接機など)があるため、計測器を破損させるおそれがあります。
まとめ
HIOKI は、これらに対応する記録計およびDC/AC、高感度/ 広帯域モデルなど豊富なクランプセンサーを取り揃え、お客様の課題解決のご要望にお応えします。
• 高速サンプリングのメモリハイコーダとDC高感度電流センサーの組み合わせにより、アーク溶接の品質診断とトレーサビリティ確保ができます。
• 溶接ロボットラインでは、多チャネル同時測定により溶接電流のほか制御信号など各パラメータとの相関も確認でき、トラブル未然防止や解析に役立ちます。